ゼロからわかるバリュエーション!ファイナンスの基礎 割引率と現在価値とは?
ゼロからわかるバリュエーション!ファイナンスの基礎 割引率と現在価値とは?

割引率と現在価値とは?考え方と計算方法を知ろう~バリュエーションの基礎①

藤波 由剛
2023年9月13日 • この記事は7分で読めます
2023年9月13日 • 7分で読めます

今回はバリュエーションを学ぶ第一歩として「割引率」と「現在価値」の概念を説明します。ファイナンスの基本的な内容ですが、ここがバリュエーションのスタート地点になりますので、初めての方はしっかりと確認して下さい。

今回の内容
・今日のお金と明日のお金はどちらが価値が高い?
・複利と単利とは?
・要求リターン・現在価値・割引率とは?

はじめに

バリュエーションとは?

まず、これから執筆していく記事では「バリュエーション」を「企業の経済的な価値を評価すること」と定義します(※)。バリュエーションは「ファイナンス」と呼ばれる領域の一分野です。

以前、ビジネスにおいては定量的に議論をすることが重要というお話をしました。「企業」を対象に議論をする時もそれは同様で、企業の価値も定量化できると、さまざまな状況で議論の精度を引き上げることができます。例えば、「ある会社へ投資をするべきか(ある会社の株式を買うべきか)」「新しい経営方針は自社の価値にプラスに働くか」といった問いを、バリュエーションへの理解があると数字で検討することができるようになります。

現代の経済活動の多くは企業によって担われているため、バリュエーションへ理解を深めることは経済のあり方について議論を深めること、と言っても過言ではないかもしれません。また、上場会社の経営者は「株価」を通じて常に株主と投資家の厳しい視線に晒されており、バリュエーションはまさに株価を議論するものですので、上場会社で働く方や株式投資に関心を持つ方にも関連するトピックです。

今回は、バリュエーションを学ぶ第一歩として「割引率」と「現在価値」の直観的な意味を理解しましょう。

(※) 厳密には、企業以外の金融資産などについても「バリュエーション」という言葉が使われることはありますが、BizObiの記事では企業を対象に議論していくのでこのように考えましょう。

今日のお金と明日のお金はどちらが価値が高い?

さて、ここで質問です。「今日の1,000円」と「明日の1,000円」で、「より価値が高い1,000円」はどちらでしょうか?「今日も明日も1,000円は同じ1,000円では」と思うかもしれません。筆者も日常生活ではそのように考えがちです(笑)。しかし、ファイナンスでは「今日のお金と明日のお金は価値が異なる」と考え、原則として「今日の1,000円」の方が「明日の1,000円」よりも価値が高いです(※)。それは、今日のお金と明日のお金の間には「時間の流れ」があり、世の中には「利子」が存在するからです。

(※) 厳密にはマイナス金利やデフレーションを考慮するとこのようには言い切れないのですが、一般的にこれらを意識する機会は少ないため議論を省略します。

利子の計算をしてみよう

基本的な利息の計算

それでは、次に以下の設例を考えてみましょう。興味のある方はExcelや電卓で計算してみて下さい。

・利息が年率1.0%でつくA銀行に10,000円を預金した場合、3年後にこの預金はいくらになるか。
・ただし、毎年受取る利息は、上記と同じ条件で預金されなおすものとする。

計算すると、預金は3年後に「10,000×(1+0.01)^3=10,303円」となります。年利1%が3年間積み重なり、預金は預けた時の10,000円から303円増えているわけですね。

(※) 「^」はExcelで「累乗」の表記です。筆者はExcelに慣れているので、普段から累乗を「^」と表記しがちなのですが、弊社のエンジニアには初め意味が伝わらず、「累乗を^で表記するのは常識ではない」と怒られました(笑)。

複利と単利

上記の計算は「累乗」で行いました。これは「受け取った利息は同じ条件で預金しなおす=再投資する」という設例の条件に基づいています。例えば、1年目に受け取った利息100円は預金しなおされ、2年目には「100円×0.01=1円」の利息を生み出しています。このように、受け取った利息を再投資し再び利息を得ていくことを「複利」と呼びます。

これから取り組んでいくバリュエーション(ファイナンス)では、基本的に複利が想定されていることを覚えておいて下さい。

なお、受け取った利息を再投資せずに利息を求めることを「単利」と呼びます。先ほどの設例が単利であれば、毎年100円の利息を得たら、即時にその100円を引き出して自宅にタンス預金しておくことになります。

(※) 現実には「複利」で資金を運用し続けるのは案外難しいものですが…。

将来の預金の現在の価値を評価する

さて、それでは以下の設例はいかがでしょうか。

・A銀行は、預金に対して年率1.0%の利息を支払う。
あなたが、A銀行で3年後に10,000円の預金残高を形成したければ、A銀行へいくら預金をする必要があるか。ただし、複利を前提とする。

先ほどは利息で預金が増えていく計算でしたが、今回は将来の預金残高から利息を考慮して現在の預金を逆算する設例になっています。計算すると、「10,000 / (1+0.01)^3=9,706円」となります。9,706円を預けると、年利1.0%が複利で積みあがって3年後には10,000円になりますよということですね。

要求リターン / 割引率 / 現在価値

要求リターンとは

上記の設例を実感していただいたところで、大事な用語を理解しましょう。まず、投資家がある投資に対して「要求する収益」を「要求リターン」(要求収益率)(※1)と呼びます。上記の設例では、「A銀行に預金を預けると利息が年率1%」だったわけですが、これは「あなたはA銀行の預金に年率1%の要求リターンを求めた」と言い換えられます。もしも、A銀行の金利が年率1%未満だったら、あなたはA銀行ではなくB銀行へ預金したかもしれないわけです(※2)。

(※1) 「expected return」の訳で「期待リターン」(期待収益率)と呼ばれることもあります。

(※2) とはいえ、現実の円預金の金利は1.0%にはほど遠いですが…。一方で、米ドルはずいぶんと金利が上がり1.0%を大きく上回る外貨預金の機会もありますね。

現在価値と割引率とは

次に、将来のキャッシュフローの現在における価値を「現在価値」と呼び、現在価値に割引く際には要求リターンを「割引率」と呼びます。これは先ほどの「将来の預金の現在の価値を評価する」という設例で取り組んだことです。

上記の用語を使うと、先ほどの設例は以下ように表現できます。

・9,706円を要求リターン1.0%で預金し、3年後に預金残高は10,000円になった。
・3年後の預金残高10,000円の現在価値は、割引率1.0%で9,706円である。

このように考えると、冒頭の「今日の1,000円の方が明日の1,000円よりも価値が高い」という説明も納得してもらえるのではないでしょうか。金利1.0%=割引率1.0%を前提とすると、3年後の10,000円の現在価値は9,706円しかないわけです。すると、現在価値が9,706円しかない3年後の10,000円より、現在の10,000円の方が価値が高い、となります。「明日と今日」で同じ額のお金を比べると、わずかですが「今日」の方が価値が高いわけですね。

要求リターン、割引率、現在価値の3つは非常に重要な用語ですので必ず覚えて下さい。

ファイナンスにおけるリスクとリターン

リスクとリターンの関係

今回のテーマに関連して、「投資においてリスクとリターンは連動」しており「リスクの高い投資機会への要求リターンは高くなる」「同水準のリスクを持つアセットには同水準のリターンが要求される」ということも知っておいていただければと思います。

例えば、A銀行は経営が安定しており、B銀行は経営が安定していない(もしかすると倒産してしまうかもしれない…!?)としたとき、あなたがA銀行とB銀行に預金するにあたって、どちらにより高い利息を求めるでしょうか。多くの方が直観的に「B銀行に高い利息を求める」と感じるのではないかと思います。銀行が倒産すると預金は一定額までしか保護されないことになっているので、「そのような可能性があるB銀行に預金するなら利息が高くないとワリに合わない」と考えるわけです。

ここで、ファイナンスにおける「リスク」とは、「リターンのばらつき」を意味することも知っておいて下さい。ちょっとわかりにくい言い方ですが、「実現すると思ったリターンが本当に実現する(不)確実性がどれだけあるか」と捉えると理解しやすいでしょうか。上記のA銀行とB銀行の場合、預金者と銀行の間には「いつでも預金は引き出せる=返ってくる」「提示された利息が支払われる」という「約束」があり、預金者は基本的に約束が履行され実現すると思っています。そして、経営が安定するA銀行は「実際に約束が履行される可能性が高い」、一方で経営が不安定なB銀行は「約束が履行されない可能性がある=約束が履行されない不確実性がある」ため、預金者はB銀行へA銀行よりも高い利息を求めます。この「約束が履行されないかもしれない可能性」が「リターンが実現しないかもしれない=リターンにばらつきがありそう=リスクがある」ということになります。慣れないとまどろっこしいですが、「ファイナンスでリスクとは不確実性である」と覚えておくといいかもしれません。

割引率が高くなると現在価値は小さくなる

最後に、将来の預金残高の現在価値を求めた設例をもう1度見てみましょう。設例では、割引率1.0%の場合、3年後の10,000円の現在価値は9,706円でした。もしも、割引率が2.0%だったら3年後の10,000円の現在価値はいくらでしょうか?計算してみると、「10,000 / (1+0.02)^3=9,423円」となり、割引率が1.0%の場合の現在価値9,706円より低いことがわかります。

このように、「同じ3年後の10,000円」でも、割引率が高くなると現在価値は低くなります。リスクが高い将来キャッシュフローの現在価値は低く評価されるわけです。言葉で書くと難しく見えるかもしれませんが、上記の計算式をイメージできれば大丈夫ですので、感覚をぜひ理解しておいて下さい。

というわけで、今回はバリュエーションの第一歩として「割引率」と「現在価値」という用語を説明しました。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 藤波由剛)

説明会の内容
  • 「実務ができる」に基づくBizObiの特徴
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説明会の日程
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