EBITDAとは?読み方や計算式から実務での活用の留意点まで
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EBITDAとは?読み方や計算式から実務での活用の留意点まで幅広く解説!

藤波 由剛
2023年10月13日 • この記事は9分で読めます
2023年10月13日 • 9分で読めます

今回は財務分析やバリュエーションの実務でよく利用されるEBITDAを解説します。読み方や計算式などの基礎から、実務での活用の留意点など進んだポイントまで、幅広く説明します。営業利益を起点とする計算式だけでなく、税引前当期純利益や経常利益を起点とする計算式も紹介します。

今回の内容
・EBITDAの読み方
・EBITDAの意味と営業利益を起点とした計算式

・税引前当期純利益や経常利益を起点としたEBITDAの計算式
・その他の実務上の留意点

EBITDAの読み方

まずはEBITDAの読み方です(笑)。面白いことに、EBITDAには「イービッダー」と「イービットディーエー」の2通りの読み方があります(※)。これらは「流派」のようなもので、X(Twitter)でどちらの読み方を使っているかアンケートされているのを見たことがあるぐらいです(笑)。

結論としてはどちらの読み方でも構わないと思います。筆者は日本語では「イービットディーエー」と読むことが多いですが、なぜ自分がそのように読むようになったかは記憶にありません。こちらのredditのアンケートによると、海外では「イービダー」と読むのが主流のようです。筆者も英語で会話する時は無意識に「イービダー」と言っているかも…。

(※)「イービットダー」など他にもあるかもしれません?

EBITDAとは?

次に、意味と計算式です。まず、EBITDAは「Earnings before Interest, Tax, Depreciation & Amortization」の略称です。訳すと「利息・税金・減価償却費およびその他償却費を計上前の利益」となります。そして、日本会計基準では「EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費」と計算されることが多いです。

EBITDAの標準的な説明は以上です。しかし、これでは意味がよくわかりませんね(笑)。なぜ、このような説明しかされないことが多いのか筆者なりに推測すると、EBITDAには明確な定義がなく、会社や実務家によって計算方法すら異なるからではないかと思います。EBITDAはよく使われますが、会計基準で定められた「利益」ではなく、実務の慣習にすぎないのです(※)。

というわけで、ここからは主に財務分析とバリュエーション(企業価値評価)の視点で、EBITDAの捉え方を筆者なりにご紹介します。

(※)記事の執筆にあたり、本棚にあった大学レベルの会計の教科書でEBITDAの定義を探したのですが、何と索引に用語の掲載すらされていませんでした。会計学の立場では、EBITDAは怪しい数字ということでしょうか(笑)。

実務におけるEBITDAの意味

まず、EBITDAには、以下のふたつの意味があると捉えていただくと良いでしょう。

① 営業キャッシュフローの簡易的な代替(税引前の)
② 投資前の経常的な事業利益の指標

まず①について。こちらの記事でも少し触れたとおり損益と営業キャッシュフローは異なりますが、財務分析やバリュエーションにおいて「営業キャッシュフローの確認は面倒だが、ざっくりと(税引前の)営業キャッシュフローのイメージを知りたい」という状況はとてもよくあります。このような時にEBITDAを見ます。

営業利益を起点とするEBITDAの計算式

日本会計基準での一般的な計算式として「EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費」を紹介しました。この式が営業利益を起点にする理由は、おそらく最も簡便に簡易営業キャッシュフローを求められるからでしょう。まず、こちらの記事で触れたように「営業利益は本業の稼ぎ」を表します。そして、売上高から営業利益を求めるプロセスにある「売上原価と販管費」の中で、「費用は計上されているがキャッシュは流出していない代表的な科目」が「償却費(具体的には減価償却費とのれん償却費)」です。したがって「本業の稼ぎである営業利益に、代表的な非キャッシュ項目の償却費(具体的には減価償却費とのれん償却費)を足し戻せば、概ね本業のキャッシュの稼ぎ=営業キャッシュフローに近くなるのでは?」と考え、EBITDAをこのように求めているわけです。

日本会計基準では、損益計算書で支払利息は営業利益の「下」にあることに留意して下さい。EBITDAは「税金と支払利息」を含みません(※)が、営業利益は支払利息を差し引く前の数字であるため、この計算式では支払利息を足し戻す必要がありません。

(※) EBITDAが支払利息を含まない理由は、支払利息の大小は事業とは別に資本政策で決まる側面があり、EBITDAでは「資本政策と切り離した事業の数字」が見たいという視点に拠ります。この「事業」と「資本政策」を切り離す思考はファイナンスらしい考え方と言えるかもしれません。

税引前当期純利益を起点とするEBITDAの計算式

EBITDAを営業キャッシュフローの簡易的な代替と捉えると、他の計算方法を用いることもできます。例えば、営業利益ではなく税引前当期純利益を起点に「EBITDA=税引前当期純利益+支払利息+減価償却費+のれん償却費」という計算式が用いられることがあります。

計算の起点として営業利益ではなく税引前当期純利益の式を用いる最大の利点は、日本会計基準とIFRSなど異なる会計基準を採用する企業間でEBITDAを比較しやすくなることです。会計基準によって「どこまでが営業利益に含まれるか」は異なるため、このような場合は税引前当期純利益から求める方が「似たような(比較可能性が高い)」EBITDAを計算することができます。

この時、税引前当期純利益に「支払利息」を足し戻していることに注意して下さい。これは、税引前純利益は利息支払い後の数字であるため、EBITDAの定義に合わせるためには足し戻しが必要となるからです。このように「ある費用項目が、見ている利益項目の『上』にあるか『下』にあるか」は実務では非常に重要な視点であることを覚えておいていただくと良いでしょう。

「投資前の経常的な事業利益の指標」としてのEBITDA

さて、EBITDAには「①営業キャッシュフローの簡易的な代替」と「②投資前の経常的な事業利益の指標」のふたつの意味があると紹介しました。筆者はバリュエーションの視点でEBITDAを確認することが多いので、後者も意識することが多いです。

「投資前の経常的な事業利益の指標」という視点で見ると、先ほどの税引前当期純利益を起点とするEBITDAの計算式には営業外損益および特別損益が含まれてしまっており、これらは「経常的な」「事業利益」と呼べるのか?という論点が生じることがわかります(損益計算書における分類上、営業外損益は「本業外の損益」であり、特別損益は「一時的な損益」です)。税引前当期純利益を起点とする計算式には、異なる会計基準間で比較的揃った目線のEBITDAを求めやすいという利点はあるものの、「経常的な事業利益」という視点では扱いに注意が必要かなと思います。また、EBITDAは会社や実務家によって計算方法が異なりますが、「なぜそのように計算したか」を「経常的な事業利益にどこまでを含めるか」という視点で考えてみると、計算した人の意図を理解する糸口になるかもしれません。

持分法投資利益とEBITDA

バリュエーションの視点でEBITDAを活用しようとすると、持分法投資利益(と損失)はよく気になるポイントです。EBITDAを「営業キャッシュフローの簡易的な代替」と捉えるなら、持分法投資利益はキャッシュフローを伴わないため、EBITDAに含めるか議論になり得ます。一方で、EBITDAを「投資前の経常的な事業利益の指標」と捉える場合、経常的な利益として一定規模の持分法投資利益を計上する会社は少なくないため、持分法投資利益もEBITDAに含めるべき、となります(※)。

そのように考える場合、日本会計基準の企業であれば「EBITDA=経常利益+支払利息+減価償却費+のれん償却費」と計算することも考えられます(※)。この計算式だと、経常利益に持分法投資損益が反映されています。また、支払利息は経常利益の「上」にあるため支払利息は足し戻されています。

経常利益を起点とする計算式では持分法投資損益(と支払利息)以外の営業外損益もEBITDAに含まれることになります。「営業外損益は本業の稼ぎ(事業利益)ではない」と考えるなら、「EBITDA=営業利益+減価償却費+のれん償却費+持分法投資損益」と計算することも考えられるかもしれません。ちょっと「こだわりすぎ」という気もしますが…。

(※)持分法投資利益はいずれ配当としてキャッシュで回収されると考えるなら、EBITDAに含めても違和感ないという考え方もできます。実際に持分法投資利益の全額が配当としてキャッシュ回収できるかはケースバイケースですが。

結局のところEBITDAの計算式は「何を重視するか」による

以上、EBITDAの意味と計算式について説明してきました。計算式については、営業利益、税引前当期純利益、経常利益の3つを起点にする式を紹介しました(ちょっと手厚すぎたでしょうか?(笑))。

ここでもう一度、EBITDAの意味を確認してみます。

① 営業キャッシュフローの簡易的な代替(税引前の)
② 投資前の経常的な事業利益の指標

上記の定義には、「営業キャッシュフローを見たい」「経常的な数字を見たい」「(キャッシュフローではなく)事業利益でも構わない」という「3つ」の視点が含まれています(しかも、営業キャッシュフローと事業利益は異なる概念で両立しないとすら言えます(笑))。EBITDAは、活用する実務家によってどの視点を重視するかが異なります。実務でEBITDAを活用する場合は、「自分は何を知りたいのか」を意識して重視する要素を決め、利用する計算式を確認していただくのが良いと思います

EBITDAに関するその他のよくある質問

EBITDAと営業利益の違いは?

計算式で明らかな通り、営業利益は償却費を考慮していますが、EBITDAは償却費を考慮していません。営業利益は事業の実態に即して投資も損益に反映していますが、EBITDAは投資「前」の損益を見る指標だからです。

EBITDAマージンを読む時に気をつけるべきことは?

EBITDAマージンは「EBITDA/売上高」で求められますが、上記よりEBITDAマージンは「投資前」の数字であることを強く留意する必要があります。例えば、多額の設備投資が必要な会社(携帯キャリアのようなインフラ企業や、大規模な工場を必要とする製造業など)では、EBITDAマージンは高くても営業利益率はそれほどでもないという場合もあるかもしれません。また、投資が多額に必要な事業とそうでない事業のEBITDAマージンを同じ目線で比べることはできません。

調整後EBITDA(Adjusted EBITDA)とは?

かなり進んだ論点ですが、調整後EBITDA(Adjusted EBITDA)という用語を決算説明資料などで見かけることがあります。これは、ここまで説明してきた一般的なEBITDAと「異なる」計算が行われたことを明示する表現です(※)。

例えば、リクルートHDの23/3期決算説明資料では「調整後EBITDA=営業利益+減価償却費及び償却費(使用権資産の減価償却費を除く)+株式報酬費用±その他の営業収益・費用」とされており、「リクルートHDとして投資前の事業利益を投資家にコミュニケーションするにはこのような計算がわかりやすいと考えた」ため記載されている指標となります。

調整後EBITDAの内容は会社によって大きく異なり、例えば、大型のM&Aに取り組んだ企業がM&Aの影響を除いた継続的なEBITDAを明示するために開示する場合や、積極的な投資を行う段階にあるスタートアップが「成長投資」にあたる広告宣伝費などを足し戻して開示する場合などがあります。米国企業を中心に「ストックオプションを付与しただけでキャッシュの支出をともなわない」株式報酬費用が足し戻されることもよくあります。調整後EBITDAは会社が自由に定義できるため、何が含まれるか/含まれないかをよく確認する必要があり、読み手としては非常に慎重に扱うべき数字であることに気をつけましょう。

以上、「簡単なようで奥深い(面倒とも言う)」EBITDAについて解説させていただきました。バリュエーションでEBITDAを扱う場合は、EV/EBITDA(EBITDAマルチプル)という指標の議論に進んでいきますが、それは別の機会に。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 藤波由剛)

(※) 一般的なEBITDAの計算式を利用した場合でも、EBITDAには複数の計算方法があるため、会社が用いた計算式が明示される場合は少なくありません。

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