キャッシュフローを割引いて事業の価値を求める
キャッシュフローを割引いて事業の価値を求める

ゼロからわかるバリュエーション!事業の価値はどうやって求める?

藤波 由剛
2023年9月22日 • この記事は4分で読めます
2023年9月22日 • 4分で読めます

今回はバリュエーションの基礎の第2回として「事業の価値をどうやって求めるか?」を説明します。具体的には将来キャッシュフローを割引いて事業の価値を求めてみます。「会社の価値」を理解する基礎になる重要な内容です。しっかり確認していきましょう。

今回の内容
・永続するキャッシュフローの現在価値の求め方
・キャッシュフローが永続的に成長する場合の現在価値の求め方

事業の価値の基本的な求め方

前回は割引率と現在価値の考え方を説明しました。事業の価値も同様で、事業から生まれる将来のキャッシュフローを割引いて現在価値を計算することで求められます。

例えば、以下の設例を見てみましょう。

・年度始めに3年間のコンサルティング・プロジェクトを受注した
・本プロジェクトでは、毎年度末に3,000万円の支払いを受ける
・割引率を5%とした場合、本受注の現在価値はいくらか(コストや税金は考慮しなくて良い)

上記の設例の現在価値は以下のように各年のキャッシュフローを割引いて合算することで求められます(単位は万円)。

・1年目の入金の現在価値   3,000 / (1+0.05) = 2,857
・2年目の入金の現在価値   3,000 / (1+0.05)^2 = 2,721
・3年目の入金の現在価値   3,000 / (1+0.05)^3 = 2,592
・入金の現在価値の合計     2,857+2,721+2,592 = 8,170

マニュアルで計算するのは面倒ですが、Excelを使えば計算はそれほど大変ではありません。これが「期間が有限な事業」の基本的な価値の求め方になります。

永続するキャッシュフローの現在価値の求め方

さて、次に以下の設例を見てみましょう。

・新規事業を年度始めに起ち上げた
・初年度から毎年度末に3,000万円のキャッシュを生むとする
・割引率を5%とした場合、この事業の現在価値はいくらか(コストや税金は考慮しなくて良い)
・ただし、事業と3,000万円のキャッシュインは永続するものとする

この設例のポイントは「永続」です。Excelを使っても、各年のキャッシュフローを「永遠」に割引いて合算することはできませんので困ってしまいます。が、この設例は高校数学で学ぶ無限等比数列の和として解くことができます。

数式の説明は割愛しますが、キャッシュフロー(C)が永続する前提の場合、キャッシュフローの現在価値は「C/r」(キャッシュフロー/割引率)で求めることができます。随分とキレイな式になりましたね(笑)。上記の設例で事業の現在価値は「3,000万円/5%=6億円」となります。慣れると簡単な計算は暗算できるので、事業期間が有限の場合より計算はむしろ簡単になるかもしれません。

キャッシュフローが永続的に成長する場合の現在価値の求め方

さて、議論をさらに一歩進めて以下の設例を見てみましょう。

・新規事業を年度始めに起ち上げた
・新規事業を起ち上げ、初年度末に3,000万円のキャッシュを生むまで軌道に乗せた
・2年目以降、キャッシュインは前年度比で毎年3%ずつ成長する見込みである
・割引率を5%とした場合、この事業の現在価値はいくらか(コストや税金は考慮しなくて良い)
・ただし、事業とキャッシュインの成長は永続するものとする

この設例のポイントは「キャッシュインが毎年3%ずつ永遠に成長する」という想定です。以下のように「永久成長率」という概念を組み込むことで、この設例も無限等比数列の和として解くことができます。

この場合、キャッシュフローの現在価値は「C/(r-g)」(キャッシュフロー/(割引率-永久成長率))で求めることができます。実際に計算すると、現在価値は「3,000万円/(5%-3%)=15億円」となります。またしても、ずいぶんと簡単な計算になりましたね(笑)。

「永続」の価値は非常に大きい

今回のテーマで理解していただきたい計算式は以上になります。なお、数式を見るとアレルギー反応が出る…という人は結論だけ覚えてもらえばOKです。もちろん、前提やプロセスに納得するため可能であれば1回は自分の手で結論の式を導出してみることをお勧めします。

ちなみに、今回扱った3つの設例について、求めた現在価値はそれぞれ「8,170万円」「6億円」「15億円」でした。どれも似たように(?)「年3,000万円のキャッシュフローが得られる事業」でしたが、「3年間のプロジェクト」が「永遠のプロジェクト」になり、さらに「毎年3%の成長」を見込むことによって現在価値がどんどん引きあがっていることが理解いただけると思います。

特に、「永遠」と「永続的な成長」の価値は非常に大きいことを、数字を見てぜひ理解して下さい。「会社の寿命は30年」などと言われることもあり、現実には会社が「永続する」という想定はファンタジーですが、それでも何十年も事業が続くということはあり得ます。経営者が従業員と比べて高い報酬を得ることを正当化できる理由を考えるなら、「経営者は永続的な(非常に長期にわたって)儲けられる仕組みを作ることに責任を負っているから」というロジックはひとつの説明になるでしょう。それぐらい「継続する仕組みを作る」ということは経済的に価値が高いこと、と言えるわけです。(※)

今回はここまでにしたいと思います。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 藤波由剛)

(※) とは言え、アメリカのように従業員と比べた経営者の報酬が極端に高いのも考えものですが…。これは難しい「程度」の問題であると言えます。

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