今回は事業分析でとても役立つ「変動費」と「固定費」について、教科書レベルの知識を紹介します。事業分析に必須の知識ですので、はじめての方はしっかりと押さえて下さい。
今回の内容
・変動費・固定費・限界利益の意味
・損益分岐点の求め方とグラフ
・費用構造のイメージを持つ
目次
変動費・固定費・限界利益
変動費とは
変動費とは「販売数量に直接連動する費用」です。多くの場合、販売数量≒売上高なので、「売上高に直接連動する費用」と言えます。
例えば、饅頭を売る和菓子屋の場合、饅頭の原材料費は変動費です。なぜなら、饅頭が売れた分だけ、饅頭を作るために原材料が必要になって原材料費が上昇するからです。
また、売上高に占める変動費の割合を「変動費率」と呼びます(変動費率=変動費/売上高)。
固定費とは
固定費とは「販売数量に直接は連動しない費用」です。これも、販売数量≒売上高と考えると、「売上高に直接は連動しない費用」と言えます。
例えば、同じく饅頭を売る和菓子屋の場合、店頭で饅頭を売る販売担当者の人件費やお店の賃料は固定費に当たります。なぜなら、お客さんがまったく来なくて饅頭がひとつも売れなくても、店頭に立つ販売担当者の人件費は支払う必要がありますし、お店の賃料も大家さんに払わないといけないからです。会社をイメージすると、本社オフィスの賃料や、バックオフィスのスタッフの人件費なども固定費に該当します。
また、売上高に占める固定費の割合を「固定費率」と呼びます(固定費率=固定費/売上高)。
限界利益とは
変動費と固定費に関連する用語で「限界利益」も知っておきましょう。限界利益は「限界利益=売上高-変動費」と定義されます。費用が変動費と固定費で構成されるとすれば、固定費を考慮せず、商品から変動費(原価)を除いた儲けが限界利益です。
極端な例で、和菓子屋が「何もしなくても」饅頭を作れば売れるとしましょう。「何もしなくても」とは、販売スタッフはおらず、店舗もない状態で、とにかく作った饅頭をどこかに並べておくとお客さんが勝手に買ってくれ代金を置いていってくれるようなイメージです。この時、売上から原価となる変動費を除くと、残る利益が限界利益となります。「どうしても原材料費はかかるので、これ以上は増やせない限界の利益」というイメージですね(笑)。
なお、売上高に占める限界利益の割合を「限界利益率」と呼びます(限界利益率=限界利益/売上高)。
売上原価には変動費が多く、販管費には固定費が多い
実は、上記の限界利益の説明とほぼ同じ説明を、こちらの粗利の説明で行っています。一般論としては、売上原価には変動費が多く、販管費には固定費が多いので、売上原価≒変動費だと考えると、粗利と限界利益の説明が似たものになるのです。「売上原価には変動費が多く、販管費には固定費が多い」という考え方は知っておくと役立つでしょう(※)。
(※)繰り返しますが、あくまで一般論です。例えば、売上原価にも減価償却費や労務費のような固定費の性格が強い費用も含まれますし、会社・事業によって費用構造は大きく異なります。
損益分岐点とは
もうひとつ、変動費と固定費に関連して知っておいて欲しい考え方に「損益分岐点」があります。損益分岐点とは「利益が出るようになる(黒字に転換する)売上高の水準」です。
損益分岐点の求め方
損益分岐点は以下のいずれかの式で考えることが一般的です。必要な数字を用いればこれらの式で損益分岐点(の販売数量か売上高)を求めることができます。
・損益分岐点の販売数量=固定費÷販売単位あたり限界利益
・損益分岐点の売上高=固定費÷限界利益率
例えば、以下の条件で饅頭を売る和菓子屋をイメージしてみましょう。この和菓子屋が黒字に転換するには、饅頭を1日にいくつ販売する必要があるでしょうか。
・饅頭1個あたりの販売価格:100円
・饅頭1個あたりの変動費:30円
・和菓子屋の1日あたりの固定費:16,000円(販売担当者の人件費や店舗の賃料など)
まず、饅頭1個あたりの限界利益は販売価格-変動費で70円です。損益分岐点の販売数量の式に数字を入れると、固定費16,000円/販売単価あたり限界利益70円=228.6個が損益分岐点の販売数量になります。饅頭を切って売るわけにはいかないので、229個売れば黒字になるはずですね。
同じように、損益分岐点の売上高の式に数字を入れると、固定費16,000円/限界利益率70%=22,857円が損益分岐点の売上高になります。饅頭は1個100円なので、100円単位で考えると饅頭を22,900円販売するとこの和菓子屋は黒字化します。当然ながら、上記の販売数量の式で求めた結果と同じになります。
損益分岐点のグラフ
損益分岐点の計算方法を紹介しましたが、機械的で面白みに欠けますね(笑)。損益分岐点はグラフでイメージする方がわかりやすく実感が持てます。

和菓子屋の設例について、限界利益と営業利益をグラフで描くと上記のようになります。横軸が売れた饅頭の数、縦軸が利益・費用の金額です。
「限界利益=固定費=16,000円」「営業利益=0円」となる損益分岐点にはオレンジの縦線を引いておきました。経営の視点でわかりやすいかなと思うのは限界利益の視点です。限界利益の視点では「固定費16,000円を穴埋めするために、限界利益が1個70円の饅頭をいくつ売れば良いのか」と考えることができます。すると、限界利益が固定費と同額の16,000円に達したところで損益分岐点に達したと考えられるわけです。計算式は無味乾燥に見えますが、このように考えると「16,000円の固定費を埋めるために1個70円の饅頭を229個売る必要があって…」とリアルにイメージできるではないでしょうか。
費用構造のイメージを持つ
さて、ここまで変動費と固定費の教科書レベルの知識を紹介してきましたが、大事なのはここから先です(笑)。
事業分析において、事業の費用構造は変動費と固定費で捉えていくことになりますが、何をするかというと単純(と言えば単純)で、「主要な費用項目について変動費か固定費かを分類」して「事業の費用構造をイメージ」していきます。

例えば、費用構造によって四象限に事業を分類するなら、各象限には上記のような業種が該当すると考えられます(※)。携帯キャリア(NTTドコモやKDDIの携帯電話事業)を例に考えてみましょう。携帯電話事業の限界利益率は非常に高いはずです。なぜなら、ユーザーが1人増加することによって追加的にかかるコスト(原価≒変動費)はほとんどないからです。一方で、携帯キャリアとしてユーザーに選ばれるには通信設備や基地局などネットワークへの投資を先行して行う必要があり、これは莫大な金額の固定費として事業にのしかかってきます。つまり、携帯キャリアは「限界利益率が高く、固定費も高い」事業なのですね。
この対極にあるのが家電ECです。インターネットで家電を買える家電EC(現代では、Amazonや楽天などのモールに出店している場合が多いでしょうか)は、どのお店でも同じような商品を扱っており、極端に言えば誰でも始められるかもしれません。しかも、どこでも同じ物が買えるために価格競争は激しく、限界利益率は低いでしょう。それでも家電ECが利益を出せるのは、家電量販店など「リアル」な店舗を出店している小売店に比べると、リアルな店舗の固定費を低く抑えられているからと言えます。家電ECは「限界利益率が低く、固定費も低い」事業と言え、携帯キャリアとは費用構造がまったく反対になります。
(※) 実際には、会社によってビジネスモデルが異なるため、業種別の安易な分類には注意が必要です。今回はこういう注記が特に多くてすみません(笑)。
変動費と固定費による検討は基本にして奥義
このように、事業の費用構造を変動費と固定費でイメージし、「売上が増えたら/減ったら利益がどうなるか」を考えるのが費用構造の検討の基本です。売上高の分析と同様に、「自然と息をするように(なるべく)一次情報に基づいて自分でできること」が理想となります。「考え方は知っている/わかったけれど、実際に自分で数字で考えられるかはちょっと…」という方は、是非こちらのコースを受講してみて下さい。
今回扱った変動費と固定費の考え方は、事業分析の勉強をしたことがある方なら誰でも知っていると思います。しかし、会社を外から見て企業分析をする場合でも、会社の中から経営や経理の視点で費用の検討をする時も、費用の検討は基本的に変動費と固定費で行うのですね(粒度はいろいろなレベル感がありますが)。その意味で、変動費と固定費は「基本にして奥義」と言えるほど大事な考え方ですので、ぜひしっかりと理解していただければと思います。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 藤波由剛)