人的資本経営にも関連!研修のROI(投資収益率)を考える

藤波 由剛
2023年8月14日 • この記事は9分で読めます
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今回は人的資本経営にも関連する「研修のROI(投資収益率)」について、具体的にどのように定量化できるかご紹介します。弊社では「業務に直結し実務ができるようになる研修のROIは非常に高い」と考えています。

今回の内容
・ROI(投資収益率)とは?
・研修への「投資」額とは?
・研修から生じる「利益=リターン」とは?
・業務に直結し実務ができるようになる研修のROIは非常に高い

ROI(投資収益率)とは?

多くの会社が研修の定量的な効果測定として研修後に受講者から回収するアンケートを活用します。例えば、受講者へ研修に対する「満足度」「有益度」などを質問し集計します。まず、はじめに申し上げたいのですが、このような情報は、研修運営の検証には有効ですが、投資対効果を測るという意味ではあまり意味がありません。経営の視点では、「受講者の満足度が高いからこの研修をやって良かった」とはならないということです。

経営の視点では、研修とは投資です。そして、企業が行う投資は「利益=リターン」を生まなければならず、投資の効果と効率はROI(投資収益率、Return on Investment)で測れます。

ROIは「利益額/投資額」で求められます。例えば、1,000万円の費用をかけて商品を仕入れ、これを1,200万円で販売したとします。他にコストがかかっていないとすれば、この商品の仕入れは1,200万円-1,000万円=200万円の「利益=リターン」を生んでいます。この場合、投資額は仕入れ費用の1,000万円、利益額は儲けの200万円になるので、ROI(投資収益率)は、200万円/1,000万円=20%となりますね。もしも仕入れた分だけ必ず売れるなら、仕入れの総額に対して20%の利益が得られるわけですから、会社はどんどん仕入れる=投資するでしょう。

研修のROIの測り方

研修のROIの計算式

それでは、研修のROIは具体的にどのように測れるでしょうか。研修のROIは以下の計算式で求められます。

研修のROI = 研修により生じた利益 / 研修への投資額

式はシンプルで、先ほどの仕入れの設例と考え方は同じです。では、「研修により生じた利益」と「研修への投資額」はどのように求められるでしょうか。

研修への「投資」額は?

まず、研修における「投資」額は、基本的に上記のように考えられます。例えば、弊社が提供するExcel研修を例に考えてみましょう(※)。8時間の研修を、研修費90万円で、30人の受講者が受講したとします。受講者の時給(時間あたり人件費)は0.2万円(=2,000円)としましょう。すると、研修の投資額は上記のように計算でき、受講者1人当たりだと4.6万円、研修全体では138万円となります。

より厳密には、研修の会場費や企画担当者の人件費なども考慮すべきかもしれませんが、多くの場合は概ねこのような考え方で良いのではないかと思います。忘れがちなのは、受講者の人件費も研修コストとして考慮すべきという点です。こちらのShoptifyの記事のように、日常的な会議でも参加者の人件費を非常にシリアスに捉える例もあります。この例は極端すぎるかもしれませんが、投資=費用において人件費を考慮することは経営の視点では重要です。

(※) 研修費用や研修時間は設例のための仮の数字です。法人のお客さまへのご提案内容は個別に異なります。

研修の「利益=リターン」額は?

続けて、研修から生じる「利益=リターン」額です。研修から生じる利益額は、基本的に「研修を実施したことによって削減できるコスト」と「研修を実施したことによって生まれる付加価値」のふたつで測ることができます。

引き続き、弊社で取り扱うExcel研修を例に考えてみましょう。Excel研修の場合、研修により生まれる付加価値はあまりないと考えてみましょう(※1)。その場合、Excel研修によるコスト削減額は、「Excelの作業スピードが上がることで削減できた受講者の人件費」と「受講者のExcelの作業クオリティが上がることで削減できた上司・先輩がOJTに充てていた人件費」の合計額と言えます。

例えば、研修後の1年についてROIを考えるとしましょう。受講者の1時間あたりの人件費が0.2万円で、研修による作業スピードのアップで月に5時間、年間で60時間のExcel作業時間を削減できたとします。すると、受講者あたりのこの研修のコスト削減額は12万円になります。Excelは計算や表現で少し悩むとすぐに時間が過ぎていきますので、Excelをよく使う仕事であればこれぐらいの作業時間の削減はよく見られるでしょう(これ以上の削減が見込める場合も多いと思います)。

おまけで、OJTを指導する上司・先輩の人件費の1年間の削減額も、受講者あたりで0.3万円×10時間=3万円を見てみました。不慣れな人が研修なしで取り組んだExcelであれば、作業内容を確認するだけでもそれなりに時間がかかりますので、これぐらい見ておいてもそれほどおかしくはないでしょう。

このように考えると、Excel研修のコスト削減額=利益は、受講者あたりで15万円、30人の参加者がいるとすると全体で450万円となります(※2)。

(※1) 厳密には、Excelの作業スピードが上がって空いた時間でより付加価値のある仕事に取り組める、ということはあるかもしれませんが、保守的な見積もりとして考慮しないことにします。

(※2) 利益額の想定について、少し厳密に議論してみましょう。研修を受けなかった場合でも、受講者が自学自習で研修後の水準までExcelスキルが上昇するとします。例えば、1年でそこまで成長するとしましょう。その場合、研修を行うことによる利益は、この「1年間」に削減できた人件費と言えます。上記の設例ではコスト削減による利益を「1年分」しか見ていませんが、言い換えると研修がなくても1年後には研修後と同水準まで受講者がExcelスキルを自学自習すると仮定していることになります。もしも、研修がなければ研修後の水準まで受講者のExcelスキルが追い付くことはないとすると、研修によるコスト削減効果は1年よりも長く利益額も上記の計算より大きいということになります。

付加価値をつける研修のリターンについて

マネジメントや新規事業企画などを対象とした「付加価値を生む」研修であれば、研修から生じる利益には「研修に取り組むことで生まれる付加価値」を考慮する必要があります。研修によって得られる付加価値はコスト削減より見積りが難しいですが、事業と現場を理解している方であれば一定のイメージは可能でしょう。

例えば、弊社が提供するバリュエーション(企業価値評価)研修に取り組み、提案・検討・施策のクオリティや実行力が上がったとすると、投資銀行であれば新たな案件の獲得から、事業会社であれば新たな投資機会の発掘や適切なM&Aへの取り組みから、大きな利益を得ることが可能になるかもしれません。もちろん、そのすべてが「研修のおかげ」とは言えませんが、大きな仕事に取り組む人が仕事に直結する意味のある研修に取り組めば、生まれる付加価値は相応に大きいことをイメージしていただけると思います(※)。

(※) このようなハイレベルな研修の場合、研修によるコスト削減効果もExcel研修とは異なる形で考えることができます。例えば、大企業のM&Aでは投資額が百億円単位以上になることがありますが、M&Aへの取り組み方をしっかりと理解することにより「十億円単位で買収金額を引き下げられた」(あるいは「十億円単位で買収金額の膨張を防げた」)という状況は十分に起こりえます。大きな仕事に「不慣れ」な人が取り組む・意思決定するリスクは非常に大きく、大きな仕事で適切なスキルがもたらす効果は(目につきにくいですが)非常に大きいです(反対に、適切なスキルを持たずに大きな仕事に取り組むリスクは実は非常に大きいとも言えます)。

業務に直結し実務ができるようになる研修のROIは非常に高い

ここまで、研修の投資額と利益額を考えてきました。以上より、設例のExcel研修のROIは以下のように求められます。

ROIは326%となり、投資した金額に対して3倍以上の利益=リターンが得られると求められます。

経営や投資の数字に馴染みのある方であれば、このROIが非常に高いことに気づくのではないでしょうか。今回の設例はあくまで仮の数字ですが、弊社のお客さまによく見られるROIの試算です。また、マネジメントや新規事業企画などのハイレベルな研修で付加価値を考慮すれば、さらに高いROIを見込むことも十分に可能です。このように、適切に企画された研修のROIは非常に高いのです。ただし、このような高ROIの実現には条件があります。それは、冒頭に記載した「業務に直結し実務ができるようになる研修」であることです。

業務に直結した研修であること

Excel研修の設例であれば、まず「業務に直結する」ということで、受講者が業務でExcelをしっかり活用する人でなければなりません。設例は、投資銀行、コンサルティング、総合商社、事業会社の企画部署といった分野の受講者を想定していますが、Excelにほとんど触らない営業担当者が研修を受けても(当たり前ですが)コスト削減にはつながりません。

実務ができるようになる研修であること

そして「実務ができるようになる」研修でなければなりません。例えば、Excel研修は世の中に非常にたくさんありますが、内容が受講者の業務にフィットして「実務ができる」ように作りこまれている必要があります。

「実務ができるようになる」はまさに弊社が掲げているテーマですので、弊社の例をあげさせていただきます。例えば、弊社のExcel研修を実施いただいているある顧客企業の企画担当の方からは、「同じExcel研修でも、これまで採用してきた講座とBizObiの講座はまったく違う。業務に役立つと評判がとても良い。自分も内容を確認したが、退屈になりがちな8時間のExcelのレクチャーを楽しく見られたし自分にとっても発見があった」とお褒めの言葉をいただいています。自慢のようになってしまい恐縮ですが、本当に役立っている研修はこのような評価になると思います。

なお、「実務ができるようになる」研修を実現するには、前提として研修の内容が業務とつながっていなければなりません。そのため、「業務に直結した研修であること」が「実務ができるようになる研修であること」の前提条件になります。

研修は事業の戦略や方針に明確に組み込まれている必要がある

経営の視点で考えてみると、研修は事業の戦略や方針に明確に組み込まれている必要があります。事業の戦略や方針として「〇を行いたい」「〇ができる必要がある」ため、その実行のために「〇という研修を行う」となっているべきです。そのように企画された研修は、ROIが非常に高くなるとともに、経営の視点で見ても事業を遂行する上で欠かせないパーツとなることでしょう。

また、今回の設例ではわかりやすく「1年間」の利益=リターンを見て考えましたが、研修によって獲得されたスキルは受講者に継続的に残ります(すぐ忘れられてしまうような研修でなければ…)。ですので、より長い時間軸で投資とリターンの関係を考えることもできますし、そのような研修も実施されるべきでしょう。適切な研修の実施は、そのものが高いROIを実現する投資であるだけでなく、中長期的に人的資本の厚みとなって経営や事業の質を変えていくインパクトを持ちえます(ただし、その前提としてその研修が中長期の事業戦略と適合して設計されている必要があります)。

本記事では、研修のROIの考え方を中心に、研修の投資対効果や設計のポイントを説明させていただきました。弊社としては、短期的にも中長期的にも、経営レベルで意義のある良い研修をしっかりとご提供していきたいと考えています。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 藤波由剛)

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