今回は筆者が財務モデルを作成する時に利用するExcelフォーマットとTipsを紹介します。これまでに紹介してきたExcelのデザインと基本は同じで、いくつかのルールに基づいて作成することで、「相手」にも「自分」にも伝わりやすくなるようにし、ミスを減らすことを主な目的としています。また、自分なりのルールがあると、デザインを個別に考える必要がないというメリットもあります。
今回の内容
・シートテンプレートの作成
・文字色のルール
・計算式の組み方
・その他のテクニック
目次
シートテンプレートの作成
まず、筆者は以下のような決まったシートテンプレートを毎回作成します(画像で見やすいように、実際のシートからフォントや罫線などを加工しています)。

見ただけでは少しわかりにくいかもしれませんが、以下のポイントを意識しています。
- 列を活用したインデントで項目を整理するため、最初の数列の幅を狭く、その次の列の幅を広く設定(筆者が画像のように作る時は、A~D列は幅を「2.00」に、E列は幅を「20.00」にします)
- 参照時のミス予防のため、財務モデルを複数のシートで構成する場合、すべてのシートで同じ期間は同じ列に配置(例えば、「21/3期はすべてのシートでG列にする」など)
- 式の組み方が変わることが多いため、実績期間と事業計画期間の間に境界線を入れる(画像ではH列とI列の間)
- 表の隣(L列)にコメント用の空白列を、その隣(M列)に移動用の「0」を配置(こちらの記事に考え方をまとめています)
財務モデルの作成時に筆者は毎回同じフォーマットを使うので、既存の空白のシートテンプレートをコピーするところから作業を始めます。
文字色のルール
もうひとつ、財務モデリングで重要なのが文字色のルール化です。「相手にも自分にも伝わりやすくなるようにし、ミスを減らす」ことに直結するので、必ずルール化を推奨します。

まず、筆者の場合のルールを例として見てみましょう。
- 値入力 ・・ 青
- シート外への参照リンク ・・ 緑
- 計算式 ・・ 黒
ここで、「値入力」とは「数字が直接入力されているセル」(画像では7行目)、シート外への参照リンクとは「Excelの他のシートのセルを参照しているセル」(画像では4行目)を意味します。計算式は四則演算・関数や参照などの式が組まれているセルです。
このように文字色にルールを設定するのは、少なくとも投資銀行業界では古くからグローバルに共有されている業界の知恵であると認識しています。このように文字の色を分けると、モデルが構造化されて非常に理解しやすくなるのですね。
少しExcelのテクニックから話題が逸れますが、財務モデルは「インプット」と「計算されたアウトプット」で構成されます。例えば、将来の事業計画値をシミュレーションする時、「販売単価が100円だとしたら」と前提を「インプット」し、「販売単価×販売数量=売上高」という計算式で売上高の計算結果を「アウトプット」するわけです。
この時、「インプット」と「計算式」の色を分けておくと、非常に数字とロジックを考えやすくなります。はじめは「計算式=財務モデルのロジック=黒」が正しいかを中心に確認します。そして、ロジックが適切と判断したら、以後はロジックに触る必要がないので、今度は意識を「インプット=財務モデルの前提=青」に集中させるわけです。このように色を意識しながら作業の状況に応じて思考を切り替えると、検討もチェックも非常に行いやすくなります。
さて、文字色のルールに戻ると、筆者は上記のシンプルなルールでモデルを作成するのですが、必要に応じて情報ベンダーで自動更新する情報などに色を設定することもあります。ルールが複雑になる場合は、ルールをまとめたシートを用意しておくのも良いですね。
また、これは筆者の個人的なこだわりなのですが、筆者は黒の計算式にシート外(他のシート)への参照リンクを含めないという運用を徹底しています。このように運用することで、シート外から参照してきた数字は何も手を加えずに参照表示されて目視で確認できるようになり、さらに計算式がシート内で完結するためチェックの負荷も軽減できます。人によって考え方の異なるところですが、参考に紹介しておきます。
繰り返しになりますが、財務モデルは複雑で、継続的に複数の人が利用することが前提です。そのため、ミスを減らすにはルールの設定が重要になります。ぜひ、実践してみて下さい。
計算式の組み方
相手にも自分にも伝わりやすくなるようにし、ミスを減らすために、筆者が意識していることがいくつかあります。
- 確認の効率化とミス削減のため、シンプルかつ見やすい式を作成する
- 更新ミスを防ぐため、式の中に値入力を混ぜない
- ミスを減らすため、同一行の計算式は基本的に同じにする
「同一行の計算式は基本的に同じにする」とは、行の途中で式が変わらないようにする、という意味です。途中で式が突然変わって(あるいは1セルだけ変わって)いても後から気づくのは難しいので…。冒頭のデザインの説明で、筆者は実績期間と計画期間の間に境界線を入れるとしましたが、これは「ここで式が変わるよ」という目印です。行の途中で式が変わる場合は、目印かコメントを残す方が良いでしょう。
その他に、筆者の場合は「IF関数の中にはIF関数を入れない」「確認をしにくいINDIRECT関数を使わない」などのマイルールがあります。これは人によると思います(笑)。
その他のテクニック
その他に財務モデルの作成時に意識している点に以下があります。
- 前提となるインプットは、インプット専用のシートを作成する
- Excelは横書きで「幅」よりも「高さ」が短いので、意識して縦方向に組み上げる(筆者が投資銀行に在籍していた当時は、ディスプレイも縦にしていました(笑))
- 余計な参照や不要な数字の混入を防ぐため、不要になった行列は削除する
- 誤って必要な行列を削除しないように、集計はSUM関数を使用せず地道に+-を用いる(その場合、誤って必要な行列を削除するとエラーが出て気づけます。SUM関数は対象の行列が削除されてもエラーが出ず気づきません)
最後に
今回は筆者が財務モデルを作成する時に利用するExcelフォーマットとTipsを紹介しました。基本は「相手にも自分にも伝わりやすくする」ということに尽きます。人によってやり方は異なるので、自分なりのやり方を考える上での参考にして下さい。このような内容を含め、財務モデリングで役立つExcelの基本スキルを動画と演習で身につけたい方は、以下のコースを確認してみて下さい。また別の記事でお会いしましょう。(執筆: 福西宗吾、藤波由剛)