デュポン分解とは?ROEとROAの考え方を知ろう
デュポン分解とは?ROEとROAの考え方を知ろう

デュポン分解とは?ROEとROAの考え方を知ろう

福西 宗吾
2023年7月21日 • この記事は4分で読めます
2023年7月21日 • 4分で読めます

今回は財務分析で頻出のROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)を紹介します。経営・投資でよく出てくる指標で、特にROEは上場会社の開示資料や経済ニュースで取り上げられることも多いです。ROEのデュポン分解にも触れます。なお、財務分析のより基本的な指標はこちらで紹介しています

今回の内容
・ROEの概要と計算方法

・ROEのデュポン分解
・ROAの概要と計算方法

ROEの概要

  • ROE=(親会社株主に帰属する)当期純利益 / 自己資本 (単位:%)

ROEは「Return on Equity」の略で、日本語では「自己資本利益率」と呼ばれます。自己資本は会社が株主から調達した額ですので、自己資本利益率は、分母の「株主から調達した額」に対して、分子の「株主に帰属する利益=税引後純利益」をどれだけ上げたかを見ます。上場企業においては株主の視点で株主が会社に委ねた資金が有効に使われているかを判断する重要な指標にもなっています。高いROEは、より少ない自己資本で多くの利益を生み出せていることを意味します。

ずいぶんと昔のことになりますが、2014年に経済産業省から公表された「伊藤レポート」(※)は上場会社にROEを8%以上とすることを求め、日本の上場会社の経営に大きな影響を与えました。

(※)「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書の通称。伊藤邦雄一橋大学大学院商学研究科教授(当時)が座長を務めたためこのように呼ばれる。

ROEの捉え方~デュポン分解

計算式に基づくと、ROEは「自己資本を減らし利益を増やす」と上昇します。しかし、これだけだと解像度が低く実務的にはやや利用しにくいです。そこで、ROEを3要素に分解して考える「デュポン分解」がよく知られています。

この式を見ると、ROEは以下の3要素で引き上げられることがわかります。

  • 純利益率を引き上げる=収益性の上昇
  • 総資産回転率を引き上げる=効率性の上昇
  • レバレッジを引き上げる=安全性をやや引き下げ攻めの財務に取り組む

3要素は、こちらの記事で紹介した基本的な財務分析の指標(収益性・効率性・安全性)と連動しています。わからない方は記事を読んでみて下さい。

さて、この3要素が使い勝手が良い理由は、3要素が経営の異なる側面を切り取っているからです。例えば、純利益率を高めるには、競争力のあるプロダクトが必要です。総資産回転率を高めるには、そのプロダクトを効率的に顧客へ販売・提供する仕組みや、会社として効率よく稼げるビジネスモデルが必要です。レバレッジが主に財務で決まると捉えるなら、レバレッジは事業とある程度切り離して考えられる資本政策の工夫を表すと言えます(※)。企業分析でも、この3要素で会社や事業を比べると見えてくるものがあるでしょう。

なお、ROEが高いことは良いことですが、業種によって水準感に大きく差があることは留意が必要です。固定資産への投資が必要な製造業の会社と固定資産への投資が軽いIT企業のROEを同列に比較することはできませんので気をつけましょう。

(※)さらっと書きましたが、上場企業の自己資本をしっかりと理解して求めることは案外難しく「純資産-新株予約権-非支配株主持分」で考えることが多いです。初級の難易度ではないため、本稿で説明は省略します。

ROAの概要

  • ROA=事業利益(簡易的には営業利益や経常利益) / 総資産 (単位:%)

続いて、簡単にROAを見ていきましょう。こちらは「Return on Assets」の略で、日本語では「総資産利益率」となります。先ほどのROEでは分母が自己資本でしたが、ROAの分母は総資産です。つまり、会社が調達したすべての額(株主・債権者・事業を通じたすべての調達額)に対してどれだけ効率的に利益を上げられたかを見る指標になります。高い方が効率的で望ましいのはROEと同様です。

筆者は、ROAは分析に使いにくいと感じています。理由は、分母に含まれる要素が幅広すぎて指標として粗いためです。とは言え、知っておく必要はあるのでご紹介しました。なお、ROAの分子にどの利益を持ってくるかはさまざまな考え方があります。教科書的には、ROAの分子は「事業」に対応する利益を参照するべきなので、営業利益や経常利益を利用しますが、税引後当期純利益が用いられる場合もあります。また、ROEと同じく業種によって水準感の違いが出る指標であることに留意しましょう。

(※) ROAはROEよりも資本政策による影響を受けにくいため、統計的に業界間比較を行う場合に使われることがあるイメージです。個別企業の事業分析を財務の視点で深く行う場合、筆者は実のところROEでもROAでもなくROIC(投下資本利益率)を分解し検討します。ROICは上級のトピックですので、いずれ機会があればご紹介します。

日々の仕事に関係するROE?

ROE・ROAは、もしかすると投資に触れている人の方が慣れ親しんでいる指標かもしれませんが、経営においても有効な重要指標です。ROEを意識する上場会社は少なくないので、上場会社で働く人にとっては日々の自分の仕事に間接的に影響を及ぼしている指標と言えるかもしれません。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 福西宗吾、藤波由剛)

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