今回は財務分析の導入として基本的な財務分析の指標(成長性分析・収益性分析・効率性分析・安全性分析)を紹介します。個別の説明が中心なので、辞書のように使って下さい。
今回の内容
・成長性分析・収益性分析・効率性分析・安全性分析の概要と計算方法
目次
財務分析とは?
財務分析とは、財務諸表の数字を割合・比率などの指標に置き換え、概要の把握、財務データの解釈や競合他社との比較などを行うことです。
基本的な財務諸表の読み方を理解したら、分析対象の企業がどのような状況にあるか(成長しているのか、有利子負債を抱えすぎていてリスクがあるのか、など)を考えることが次のステップになります。ただ、会社は千差万別なので、各社の財務諸表を眺めるだけで意味のある議論をすることはかなり難しいです。そのため、財務諸表の数字を理解するツールのひとつとして財務分析を活用します。
ただし、指標の説明をする前にふたつ留意点があります。はじめの留意点は、指標の数字を本当の意味で読み解けるようになるにはかなりのトレーニングが必要ということです。BizObiでは「会計の数字から事業や現場の状況をビジュアルでイメージできること」を会計思考のひとつのゴールとしていますが、財務指標をそのレベルで扱えるようになるには、経営や財務の視点で数字を読む経験または実務レベルの財務モデリングの経験がかなり必要です(※1)。その意味で、今回の説明は教科書レベルとなることをご理解下さい。
ふたつ目の留意点は、財務分析の指標は漠然と比較してもあまり意味がなく、過去の自社や競合他社のように事業やビジネスモデル、事業の成熟度などが近しい企業・事業間で比較する必要があるということです。例えば、成長著しいベンチャー企業と成熟した大企業の成長率を比較しても、そもそも事業規模が異なるためあまり意味がありません(※2)。成長率はもちろんベンチャー企業の方が高いでしょうが、比較されている大企業も規模の大きさを考慮すれば十分に成長していると言えることもあります。
それでは、代表的な財務分析の指標を分析の種類ごとに順番に確認していきましょう。
(※1) よく「これだけ押さえれば大丈夫!誰でもわかる財務分析入門」のような本や雑誌の特集がありますが、本当に実力をつけたいなら、そのようなマジックは残念ながらありません。
(※2) 少し違う言い方をすると、「りんごとみかんのどちらが甘いかを比べても意味がない」と言えます。りんごはりんご同士で、みかんはみかん同士で比べないと、どのりんごやみかんが甘いかはわからないということです。余談ですが、このように比較対象が示唆を検討する文脈でしっかりと「揃っている」ことを「apple to apple(になっている)」と言うことがあります。
成長性分析
成長性分析は、文字通り「どれぐらい企業が成長しているか」を表す指標です。
売上高成長率
- 売上高成長率: 当年売上高増加額 / 前年売上高 (単位:%)
よく見る指標の一つですね。売上がどれぐらい伸びているか、シンプルに事業の「勢い」を表す指標となります。単純ですが、成長率が高いほど事業が拡大しており、成長率がマイナスなら縮小しているということになります。
「売上はすべての痛みを癒す」という言葉もありますし、売上高=事業規模の成長は企業にとって多くの人が思っているよりも重要です。
利益成長率(営業利益成長率など)
- 利益成長率: 当年利益増加額 / 前年利益 (単位:%)
売上高成長率と同じように、利益がどれぐらい伸びているかを表す指標です。
成長性分析では、ひとつの指標で判断しないことが重要です。例えば、売上が伸びていても、コストが上昇し利益が減少してしまっている場合、その企業は成長していると言えない、または成長はしているが「無理な成長をしている」と言えるかもしれません。
また、事業の規模によって数字の「難易度」が大きく異なる点も注意が必要です。1兆円の売上高を100%成長(2倍)の2兆円にする難易度は、10億円の売上高を20億円にするよりもかなり難しいでしょう。
収益性分析
収益性分析は、「収益性=売上高に対してどれだけ利益を上げられているか」を見る指標です。
粗利率・営業利益率・経常利益率・純利益率
- 粗利率: 売上総利益 / 売上高 (単位:%)
- 営業利益率: 営業利益 / 売上高 (単位:%)
- 経常利益率: 経常利益 / 売上高 (単位:%)
- 純利益率: 税引後当期純利益 / 売上高 (単位:%)
「利益率」という用語でよく出てくる指標ですね。どの利益率でも、利益率が高いほど高収益、つまりより低い費用で売上高を生み出せているうことになります。
基本的に利益率は高ければ高い方が良いですが、戦略的に低い利益率で規模を追求する場合もあります。いずれにせよ、事業内容やビジネスモデル、規模によって水準に大きな差が出る可能性があり、企業間で比較する場合は比較対象とする企業を慎重に検討する必要があります。
効率性分析
収益性分析と似た用語ですが、「効率性=資産・負債(貸借対照表の項目)に対してどれだけ売上高を上げられているか」を見る指標をここでは効率性分析として扱っています。
総資産回転率
- 総資産回転率: 売上高 / 総資産 (単位:回転)
回転率というとっつきにくい名称ですが、「総資産=総負債+純資産=会社が調達したお金」に対してどれだけ売上高を生み出せているかを表す指標です。少ない調達で多くの売上を生み出せていると効率が良いため、回転数が高いほど良いとされます。直観的にもイメージできますね。一方で、総資産はあらゆる調達に対応する(固定負債や株式による調達も、通常の営業活動で生じる流動負債による調達も、意味が大きく異なる調達がすべてが含まれてしまっている)ため、分析としては粗いものになりがちです。
固定資産回転率
- 固定資産回転率: 売上高 / 固定資産 (単位:回転)
機械・建物・土地などの固定資産に対してどれぐらい売上高を生み出せているかを表す指標です。回転数が高いほど良いのは総資産回転率と同じです。例えば、工場などの固定資産を多く保有する製造業は、従業員が提供するサービスが事業の中心で固定資産が少ないコンサルティングと比べ、固定資産回転率が低くなりやすいと言えます。
売上債権回転率
- 売上債権回転率: 売上高 / 売上債権 (単位:回転)
売上債権と売上高を比較し、売上債権をどれだけ早く回収しているかを表す指標です。例えば、A社とB社について、両社とも年間売上高は1,200万円で年間を通じて均一に売上を上げており、ある時点でA社が保有する売上債権は100万円、B社が保有する売上債権は200万円とします。この時、同じ年間売上高に対してA社の方が売上債権が少ない(売上に対する現金を早く回収できている)ので、A社の方が売上債権を回収する「効率が良い」ことがわかります。より少ない売上債権でより多くの売上高を上げられると回転率は高くなります。
回転期間について
回転率と対になる概念で回転期間という指標も存在し、特に売上債権などの分析で利用されます。回転期間は回転率の逆数(分母と分子を逆にしたもの)で、例えば売上債権回転期間は「売上債権 / 売上高」で求めることが出来ます。
売上債権回転期間は、その会社が「平均してどれだけの期間で売上を現金回収しているか」を表しています(※)。回転期間の計算で用いる売上高は年間ではなく月や日で行うことが多いです。例えば、上記のA社の場合、年間売上高が1,200万円なので月商(月の売上高)は平均100万円です。すると、売上債権回転期間は「売上債権100万円 / 月商100万円 = 1月」となり、売上債権を「1か月」で回収している(売上の計上から現金の回収まで1か月を要する)ことがわかります。
売上債権回転率の「〇回転」という表現はあまり直観的ではありませんが、売上債権回転期間の「〇月で現金を回収」という表現は事業に直結しており非常にわかりやすいです。なぜこのような計算で回収までの期間が求められるかの説明はややこしいので割愛しますが、計算は慣れれば簡単で便利なので、ぜひ慣れて下さい(笑)。
(※) そのため「売上債権回収期間」と呼ぶこともあります。筆者はこちらの方が好みです。
安全性分析
安全性分析は、企業の財務リスク(例えば、倒産のリスク)を測るための分析です。
自己資本比率
- 自己資本比率: 純資産 (or 株主資本) / 総資産 (単位:%)
「返済が不要」な株主からの調達が調達全体に占める割合を求める指標です。自己資本比率が高い方が(総資産に対して純資産が多い方が)財務リスクが低いと言えます(※)。業種によって差が大きいためあくまでイメージですが、「自己資本比率30%以上」はよく見られる水準、「自己資本比率50%以上」はかなり安全運転という感じでしょうか。
(※) 「返済が不要」という表現は、正しいながらもファイナスの視点では「引っかかる」のですが(笑)、ここでは説明は割愛します。
D/Eレシオ
- D/Eレシオ: 有利子負債 / 純資産 (or 株主資本) (単位:%)
「返済が必要」な有利子負債(銀行などからの借入れ)と「返済が不要」な株主からの調達を比較する指標で、D/Eレシオが低い方が(純資産に対して有利子負債が少ない方が)財務リスクが低いと言えます。これも業種によって差が大きいですが、D/Eレシオが100%を超えると「攻めている」(純資産に対して借入れが積極的に多い)イメージでしょうか(※)。
(※) 事業に必要な資金のより多くを株主以外からの調達(主に有利子負債での借入れ)でまかない株主の投資リターンを高めることを「レバレッジをかける」と表現します。財務的な「攻め」のイメージです。
流動比率・当座比率
- 流動比率: 流動資産 / 流動負債 (単位:%)
- 当座比率: 当座資産 / 流動負債 (単位:%)
流動比率は、1年以内に支払い・返済が必要な流動負債と、現金または1年以内に換金が想定される売掛金などの流動資産の比率です。流動負債の支払い・返済を流動資産で「賄えるか」確認しており、比率が大きいと余裕があると考えられ安全性が高くなります。100%以上だと、流動負債が流動資産ですべて手当てできるイメージとなり、安全性が高いと捉えられます。
当座資産とは、現金およびすみやかに現金に換金できる流動資産(売掛金や売却可能な有価証券など)のことです。この当座資産と流動負債の比率が当座比率で、流動比率よりも資産の「現金化」の容易さとスピードを厳しく見た指標と言えます。当座比率が100%以上だと、流動負債の支払い・返済についてかなり安全性は高いと捉えられます。
固定比率・固定長期適合率
- 固定比率: 固定資産 / 純資産 (単位:%)
- 固定長期適合率: 固定資産 / (純資産 + 固定負債) (単位:%)
いずれも、早期の現金化が難しい固定資産について「1年以内に返済が必要な流動負債で賄われていないか(1年以内の返済が不要な長期の調達で賄われているか)」を見る指標です。比率が低いほど、固定資産が返済が先でよい固定負債か「返済が不要」な純資産で賄われていることになるため、安全性が高くなります。100%を下回ると安全性が高いイメージでしょうか。
固定比率は、分母に「返済が不要」な純資産をとっており、比率をより厳しく見ています。固定長期適合率は、分母に純資産に加えて固定負債をとっており、もう少し緩やかに財務リスクを評価しています。企業にとっては固定資産への投資を検討する際に参考となる指標で、これらの比率が高い場合は、投資よりも有利子負債の返済を先に考えるケースもあるかもしれません。
すべての指標を覚えているかと言うと…
さて、今回は財務分析の基本的な指標を紹介しましたが、正直なところ筆者もすべてを正確に覚えているわけではなく、必要な時に調べる指標もあります(苦笑)。このような指標があるという全体像を押さえておくことが重要ですので、皆さんもとりあえず一度は理解していただき、必要な時はその都度調べて活用できるようになって下さい。慣れてきたら、よく使う指標については計算式を頭の中に自然と思い浮かべ、指標から事業や現場のイメージをビジュアルで持つことが大事です。冒頭で述べたとおり、計算だけしてわかった気になってはいけません。
今回は基本的な指標を扱っており、他にもさまざまな指標が存在します(重要性が高いROE・ROAは改めて扱います)。興味があれば、より専門的な本などを確認してみて下さい。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 福西宗吾、藤波由剛)