今回はキャッシュフロー計算書の概要を紹介します。キャッシュフロー計算書は、しっかり理解しようとすると難易度が高いですが、ざっくりとした読み方はそれほど難しくありません。損益計算書との違いを意識するところから学んでいきましょう。
今回の内容
・キャッシュフロー計算書とは
・キャッシュフロー計算書と損益計算書の違い
・キャッシュフロー計算書の区分
・経営の視点とキャッシュフロー計算書の区分
目次
キャッシュフロー計算書とは
キャッシュフロー計算書は、一定期間における「現金」の動きを表します。現金(キャッシュ)の動き(フロー)を表すので、キャッシュフロー計算書と呼ばれます。そのままですね(※)。
会社にとって、キャッシュフローの確認はなぜ重要なのでしょうか。理由はいくつかありますが、何より大事な理由は会社は何をするにもお金が必要だからです。社員に働いてもらうには給料の支払いが、取引先から仕入れを行うには代金の支払いが必要です。また、会社が倒産する時は、損益が赤字になった時ではなく、約束した支払いができなくなった時です(損益が赤字で存続している企業はたくさんあります)。このように大事な現金の流れを会社や社外のステークホルダーが確認しやすくするためにキャッシュフロー計算書は作成されます。
(※) 上場会社の決算短信などを見るとわかりますが、日本での正式名称は「キャッシュ・フロー計算書」で、「・」が入ります。豆知識です。法定の書類を作成する人以外は知らなくて良いと思います(筆者は会計士の他のBizObi講師に教えてもらいました!)。
キャッシュフロー計算書と損益計算書の違い
ここで、キャッシュフロー計算書と損益計算書は何が違うのかと疑問を持つ方がいるのではないでしょうか。例えば、こちらの初心者向けの説明では、「税引後純利益を500万円稼いだなら、銀行口座の残高も500万円増えているはず」と話をしました。
しかし現実には、損益計算書の稼ぎ(税引後純利益)とキャッシュの動きは一致しているとは限りません。実際には異なる場合の方が多いのではないでしょうか。だからこそ、キャッシュフロー計算書を損益計算書とは別に作成する必要があるのです。
なぜそのようなことが起きるかと言うと、損益計算書の減価償却費にように、損益計算書に計上されている「数字」と実際のキャッシュの動きが異なる取引があるからです。さらに、貸借対照表の買掛金・売掛金の変動など、損益計算書には表れずにお金が動く取引もたくさんあります。
減価償却を例に考えてみましょう。例えばある年度の初日に5年償却の機械を10億円で購入したとします。代金の支払いは待ってもらえないので、10億円は速やかに支払う必要があります(例えば、「翌月末払い」は法人間取引でよくある支払い条件です)。一方で、この取引についてその年の損益計算書に計上される費用は、減価償却費の2億円(10億円÷5年)です。つまりこの年に、現金は「10億円」支払っていますが、損益計算書には「2億円」の費用しか計上されず、金額が異なるわけです。
損益計算書とキャッシュフロー計算書で作成の目的が異なるため、このような結果が生じています。損益計算書は「ある期間の企業の稼ぎをわかりやすく伝える」ことを目的としており、事業の実態を掴みやすくするには減価償却という考えがあった方が良いことをこちらで説明しました。そうすると、損益計算書の数字は実際の現金の流れとずれていき、現金の動きを知るにはキャッシュフロー計算書を別に作成する必要があるということですね。
損益計算書・貸借対照表とキャッシュフロー計算書の関係は、会計思考の根幹とも言えるものですが、理解は簡単ではありません。いったんこのトピックはここまでにして、次はキャッシュフロー計算書の区分を理解しましょう。
キャッシュフロー計算書の区分

キャッシュフロー計算書は、内訳が「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」の3つに区分されます。
「営業活動によるキャッシュフロー」は、仕入れや販売など継続的な事業活動から得た・支払った現金の動きを表します。例えば、店頭で商品を販売して顧客から受け取った現金、顧客から支払いを受けた銀行振り込み、取引先に支払った仕入れ代金などが含まれます。
「投資活動によるキャッシュフロー」は、固定資産の購入などの投資への支払いや資産の売却で得た現金の動きを表します。購入した機械の代金の支払いや、会社で保有していた株式を売却して得た現金などはここに計上されます。
最後に「財務活動によるキャッシュフロー」は、株主や債権者に関連する現金の増減を表します。株主から出資を受けた銀行振り込み、株主に支払った配当金、銀行との借入れ・返済による現金の増減を計上します。
経営の視点とキャッシュフロー計算書の区分
キャッシュフロー計算書の区分は、経営の視点での会社の数字の捉え方と似ています。会社の数字の捉え方は経営者によって考え方が異なりますが、例えば以下のような発想はよくあります。
- 事業機会を捉え、必要な「投資」を行う(投資活動によるキャッシュフロー)
- 投資の結果として、「事業」で収益を得る(営業活動によるキャッシュフロー)
- 投資は収益に先行することが多く、不足する手元資金を株主や債権者からの調達で賄う(財務活動によるキャッシュフロー)
- 事業から十分に稼ぎが得られ、手元資金に余裕が出たら、債権者への返済や株主への配当を行う(財務活動によるキャッシュフロー)
上記の「3」は、「投資>営業」の場合に不足金額を「財務」の収入でカバーするという意味です。同じく「4」は、逆に「投資<営業」の場合に余裕資金から「財務」の支払いを行うイメージですね。このように、会社の数字は「営業活動・投資活動・財務活動」の3つに分類して捉えると理解しやすくなります。このような意識でキャッシュフロー計算書を眺めてみると、各区分の数字の大小から見えてくるものがあるかもしれません。
余談ですが、この「投資」という感覚を持っていない方は少なくないようです。特に、安定した企業で働いている場合、「部署の予算や目標を達成すること」を意識する方は多いですが、「ある取り組みが既存の事業オペレーションの一部なのか将来への投資なのか」を考えられていない方は少なくない印象です。事業を捉える際にとても役立つ枠組みですので、「営業(事業)・投資・財務」という発想は是非覚えておいて下さい。
直接法と間接法
さて、その他に教科書的な説明として、キャッシュフロー計算書の作成方法に触れておきます。キャッシュフロー計算書には、直接法と間接法というふたつの作成方法があります。直接法は取引ごとに実際の現金のやりとりを記録しその積み上げでキャッシュフロー計算書を作成する方法、間接法は貸借対照表と損益計算書からキャッシュフロー計算書を作成する方法です。
実際には、ほとんどの企業が間接法でキャッシュフロー計算書を作成しています(筆者は直接法で作成されたキャッシュフロー計算書を見たことがありません)。ここでは知識として、キャッシュフロー計算書は貸借対照表と損益計算書から作成でき、それは間接法と呼ばれることを知っておいて下さい。
貸借対照表・損益計算書とキャッシュフロー計算書のつながり
実際にキャッシュフロー計算書を見ると、3区分で現金の動きが示された上で、「現金及び現金同等物」の「期首残高」「増減額」「期末残高」が示されています。これは、会社の期首の現金残高(前期末の現金残高)が、キャッシュフロー計算書で示された期中の増減を経て、貸借対照表に記載された期末の現金残高に着地したことを表しています。少し難しく言い換えると、キャッシュフロー計算書は貸借対照表と損益計算書から作成され、その記載は最終的に貸借対照表の現金の計上額に戻ってくるということですね。このように、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書は有機的につながっています。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 福西宗吾、藤波由剛)