今回のテーマは減価償却費です。とても「会計的」な考え方で初心者がつまずきやすいトピックだと思います。何ごともはじめが肝心ですので、まずは意味をしっかりと理解しましょう。
今回の内容
・減価償却費の計算方法
・減価償却の意味
・財務諸表を事業の実態に近づける理由
・償却期間の考え方
目次
減価償却とは?
減価償却とは、一言で表現すると、「財務諸表を事業の実態に近づけるため、長期にわたって利用する固定資産の購入費用を、一括で費用計上せず、利用し壊れるまでの期間にわたって分割し費用計上する考え方」です。難しいですね(笑)。減価償却は具体的な例を見る方が理解しやすいので、まず設例を確認していきましょう。
(※)今回は初めて減価償却を初めて学ぶ方を想定し、主に減価償却と損益計算書の関係を説明します。
分割して費用を計上するとは?~減価償却費の計算方法
ある運送会社がトラックを購入したとします。
- ある年の1月1日に1,000万円で新車のトラックを購入
- このトラックを購入から5年間にわたって利用し、毎年500万円の収益を上げた
- トラックは5年目の12月31日に壊れた(※)
(※)実際には5年でトラックが壊れることはほぼないと思いますが…。また、 トラックの利用に購入費以外のコストは一切かかっていないとします。
減価償却しない場合の損益

減価償却しない場合、トラックを購入した1年目に購入費用の1,000万円全額を費用計上することになります(ここではトラック購入費としました)。実際の現金の動きと一致する動きですね。
減価償却する場合の損益

減価償却は「利用し壊れるまでの期間にわたって購入費用を分割し費用計上する考え方」なので、トラックの購入費用1,000万円を利用し壊れるまでの5年で割った額の200万円(1,000万円÷5年間)が、減価償却費として5年にわたり計上されます。これが減価償却の基本的なやり方です。
財務諸表を事業の実態に近づける~減価償却の意味
それでは、なぜこのような処理をするのでしょうか。冒頭に紹介した「財務諸表を事業の実態に近づけるため」がその理由になります。先ほどの運送会社の例に戻ってみましょう。

減価償却を行わないと、1年目は「1,000万円の費用をかけて」500万円の収益を上げ、2年目以降は「何も費用をかけずに」毎年500万円の収益を上げているように見えます。しかし、この理解は事業の実態とは乖離があります。
実際には、購入したトラックを5年間使い続けており、1年目だけ費用が多額にかかり2年目以降は費用がかからないというのは妙です。むしろ、減価償却する場合に考えた「毎年200万円の費用をかけ利益は300万円だった」という理解の方が事業の実態に近いと言えます。
トラックを購入ではなくリース(レンタル)したと考えるとよりわかりやすいでしょう。仮に5年間のトラックの利用にかかる費用総額が購入とリースで同じ1,000万円だとすれば、リースの場合は毎年200万円(1,000万円÷5年間)をリース料として支払うことになり、減価償却で処理した場合と費用・利益は一致します。
なお、「長期にわたって利用する固定資産」でのみこのような処理を検討する必要があります。材料など「すぐに利用し終わってしまう流動資産」は減価償却の対象となりません。
財務諸表を事業の実態に近づける理由
ところで、減価償却をする場合としない場合を見比べ、「言いたいことはわかったが、そこまで面倒なことしなくても良いのでは?」と思った人がいるかもしれません。トラックを1台購入するだけなら、筆者もそう思うかもしれません(笑)。
しかし、事業の規模が大きくなって長期にわたって利用する固定資産が多くなった時、減価償却の概念がないと、①事業の稼ぎの実態が把握できなくなる、②投資を行いにくくなる、という問題があります。
減価償却がないと事業の稼ぎの実態が把握できなくなる
長期にわたって利用する固定資産の購入は、経営の視点では「投資」と捉えられます。「投資」という言葉を使ってトラックの例を言い換えると、減価償却を行わない場合、「多額の投資をした年は利益が(極端に)小さく、それ以外の年は利益が大きくなってしまう」と言えます。
これが1番目の問題で、投資が多い年と少ない年で利益が大きくぶれると、会社がしっかり稼げているのかそうでないのかよくわからなくなり、事業の稼ぎの実態が把握できなくなります。固定資産がトラック1台であれば、「この年の赤字はトラックの購入が理由だ」とすぐに判断できるでしょう。しかし、多数の固定資産があったら、ひとつひとつの購入時期や金額をすべて記憶するのは無理ですから、利益の意味を掴むのは難しいです。
減価償却がないと投資を行いにくくなる
2番目の「投資を行いにくくなる」という問題は、まず投資家・株主の目線で考えてみましょう。上場会社の場合、経営者は投資家の視線に常にさらされています。例えば、ある投資家が運送会社への投資を考えている時、「500万円の赤字の会社」と「300万円の黒字の会社」と、どちらに投資したいでしょうか。実際の投資の検討はもっと複雑ですが、少なくとも「赤字の会社には投資しにくい」と投資家が感じるのは自然でしょう。また、ある会社に投資した株主が投資先について「500万円の赤字」という決算を見たら、「この会社は大丈夫かな?」「経営者はしっかりやってくれているのかな?」と不安に感じる株主が必ず出てくるはずです。
また、銀行から借り入れをしている場合を考えてみましょう。銀行は取引先の損益に敏感で、取引先が黒字か赤字かで与信の考え方が変わってきます。例えば、会社が新規融資を受けたい時、非常に素朴に言うと「赤字の会社は貸したお金を返済できないかもしれないので融資はやめておこう」と銀行が考えることは現実にあります。
このように、投資家・株主は銀行は利益の数字に敏感です。そのため、このような外部のステークホルダー(利害関係者)の視線にさらされる経営者も利益をとても気にしています。ここで、減価償却という概念がないと、大きな投資をした年は必ず利益が激減してしまうので、経営者として外部のステークホルダーに不興を買いやすい大きな投資を行いにくくなってしまいます(500万円の赤字がトラックの購入という投資が理由でも、理由を問わずに利益の減少や赤字を嫌がる投資家や銀行は存在します)。一方で、成長に大きな投資は不可欠なので、会社を成長させるための投資を行うと投資家・株主や銀行が離れてしまうというのも本来はおかしな話です。
減価償却で問題をいくらか解決できる
これらの問題は、どちらも減価償却という概念を導入することでいくらか解決されます。投資のタイミングによらず、費用や利益が事業の実態に合って平準化されれば、稼ぎの実力も確認しやすく、投資へのネガティブな印象もいくらか緩和されます。
そもそも損益計算書には「ある期間の事業の稼ぎをわかりやすく伝える」という目的があるため、その意味でも減価償却という考え方は必要と言えるでしょう。
いくつかの補足事項
ここまでで減価償却の考え方はお伝えできたと思います。以下、いくつか補足事項を記載しておきます。
償却期間の考え方
上記の説明では「利用し壊れるまでの期間にわたって償却する」としましたが、実際には「耐用年数」を償却期間として設定します。現実にいつ壊れるかを推定するのは難しいため、耐用年数は会計基準で決められています(※)。国税庁のウェブページを確認すると耐用年数表があります。興味があれば、「国税庁・耐用年数」で検索してみてください(定期的に更新されており、都度調べることをお勧めしています)。参考にトラックを調べてみると、「運送事業用の自動車」に該当し、小型なら耐用年数は3年、大型なら耐用年数は5年となっていました。設例の「5年で償却」はこの数字を参考にしています。
ちなみに、耐用年数を超えて資産が使用できた場合、追加で費用が計上されることはありません。トラックが償却の終わった6年目以降も使用できるなら、6年目以降は200万円の費用は生じず、上記の設例であれば毎年500万円の利益を計上することができます。償却の終わった固定資産を利用し続けると、利益を上げやすくなるわけですね。
(※) 会計上は実態に即して耐用年数を決めることが可能ですが、日本では税務上の耐用年数を採用することが一般的です。
償却性資産と非償却性資産
冒頭で「長期にわたって利用する固定資産」が減価償却の対象となるとしましたが、もう一歩踏み込むと、固定資産の中でも「時間の経過で価値が減る資産」が対象となります。
設例で扱ったトラックは利用すると部品が摩耗して壊れますし、建物も雨風にさらされて劣化していきます。このような固定資産は減価償却の対象で「償却性資産」とも呼ばれます。
一方で、土地や株式などは経年で「使えなくなる」ことは基本的にないため減価償却の対象となりません。このような固定資産を「非償却性資産」と呼びます(※)。
(※) 土地や株式は市況で価格が変動することがあります。非償却性資産も、特定の状況において大幅な価値減少が見込まれる場合は「減損」することがありますが、上級のトピックです。
貸借対照表との関係
減価償却費が計上されると、貸借対照表上では対応する固定資産が減価償却された額だけ減額されます。上記の設例の場合、トラックの購入時には、貸借対照表の固定資産に「1,000万円のトラックを保有している」と記帳されますが、減価償却費を200万円計上するたびに、保有しているトラックの記帳額は200万円ずつ減っていきます(「1,000万円(購入時)→800万円(1年目の終わり)→600万円(2年目の終わり)・・・」)。これのしっかりとした理解は少し進んだトピックのため、今回はここまでの説明にしておきます。
定額法と定率法
実際の減価償却費の計算方法には、トラックの設例のように償却期間にわたって毎年「同額」を償却する定額法と、毎年「同率」を償却する定率法があります。細かい話なので今回は説明しませんが、興味がある人は調べてみて下さい。
まとめ
今回は、初めて減価償却を学ぶ方を想定し、主に減価償却と損益の関係を説明しました。さらに議論を深めると、減価償却と貸借対照表の関係、減価償却とキャッシュフローの関係を理解していくことになります。
とりあえず、「財務諸表を事業の実態に近づけるため」「長期にわたって利用する固定資産の購入費用を」「一括で費用計上せず、利用し壊れるまでの期間にわたって分割計上する」という基本を理解できれば減価償却は大丈夫です。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 福西宗吾、藤波由剛)