資産・負債・純資産とは?貸借対照表の仕組みを解説
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資産・負債・純資産とは?貸借対照表の仕組みを解説

福西 宗吾
2023年6月30日 • この記事は8分で読めます
2023年6月30日 • 8分で読めます

今回は貸借対照表の構成と主要な区分の意味を紹介します。初心者にとって貸借対照表は理解がとても難しいですが、できるだけ平易な説明を目指します。

今回の内容
・貸借対照表の構成
・貸借対照表を構成する主要な区分の意味

・流動・固定と一年基準・正常営業循環基準

貸借対照表とは?

貸借対照表の基本

貸借対照表は、「ある時点での、今までのビジネス(調達・運用)の積み重ね」を表します。月末や各四半期末などに作成されることが多く、企業の財務状況を把握する上で重要な表です。

初めて貸借対照表を学ぶ場合、この説明が既に難しいと思うので、簡単にイメージを掴みましょう。例えば、以下の設例をイメージして下さい。

  1. 1月1日に、株主が1,000万円を出資し株式会社を設立した
  2. 12月31日までの1年間に、この会社は事業を通じて500万円を稼いだ(税引後当期純利益が500万円だった)
  3. この会社は、12月31日時点において、会社設立時に出資された1,000万円と1年間に稼いだ500万円を合わせた1,500万円を現金で保有している

「ある会社が、設立時に出資を受けた1,000万円を元手に、1年間で500万円を稼いだ」と考えると、この設例はイメージしやすいと思います。

貸借対照表はある時点での今までのビジネスの積み重ねを表す

さて、この会社は年度の最終日である12月31日を基準に決算を行うわけですが、この会社の銀行口座に現金はいくらあるでしょうか?設例に基づいて考えれば、おそらく1,500万円が記録されているはずですね(※)。この時、この1,500万円は、「設立時に株主から1,000万円の出資を受けた」ことと、「1年間の事業を通じて500万円を稼いだ」ことを合わせた結果になります。このことを、「ある時点(12月31日時点)での、今までのビジネスの積み重ね」を貸借対照表は表す、と表現しています。貸借対照表を作成する時点が異なれば、銀行口座に記録されている残高は変化し、貸借対照表に記録される数字も異なることになります。イメージを持てるでしょうか?

(※)実際には、この設例で12月31日時点に銀行口座に預けられている預金が1,500万円では「ない」ことも十分にありうるのですが、今回は単純に考えることにします。これは、キャッシュフロー計算書に関連する少し進んだ論点ですね。

貸借対照表は左右で運用と調達を表す

さらに、貸借対照表は、表の右側で「調達」を、表の左側で「運用」を表しています。まず、左側の「運用」は「会社が事業を通じて何をどれだけ保有しているか」を表します。上記の設例で、1月1日時点の運用は「現金1,000万円」、12月31日時点の運用は「現金1,500万円」ですね。貸借対照表では、この左側を「資産」と呼びます。「資産=保有しているもの」と考えればわかりやすいのではないでしょうか。

一方で、右側の「調達」は「会社が保有しているものの出所はどこか」を表します。上記の設例で、1月1日時点であれば「現金1,000万円の出所は、株主からの出資」と表現され、12月31日時点であれば「現金1,500万円の出所は、株主から出資された1,000万円と、会社が事業で稼いだ500万円」と表されます。この調達は大きくふたつに分けられ、株主からの調達を「純資産」、それ以外(金融機関など)からの調達を「負債」と呼びます(※)。

まとめると、貸借対照表は、「ある時点での、今までのビジネス(調達・運用)の積み重ね」を表しており、左側は運用、右側は調達を表します。そして、左側の「運用=保有しているもの」は「資産」、右側の「調達=保有しているものの出所」は、株主からの調達の「純資産」と株主以外からの調達の「負債」で構成されます。なお、資産、負債、純資産の3つを、貸借対照表を構成する最も基本的な区分として「貸借対照表は3つの部で構成される」という言い方をします。

(※)この時、事業で稼いだ500万円は純資産に含まれています。なぜそのように考えるかは大事なポイントなのでこちらの記事で説明しています。

貸借対照表の資産と負債・純資産は必ず一致する

もうひとつ、非常に大事なことで、貸借対照表では「左側(資産)」と「右側(負債・純資産)の合計」が必ず一致します。資産には1,500万円が計上されているけれども、負債・純資産は合わせて1,300万円しかない…といったことは(誤りでなければ)絶対にありません。そうすると、資産のうち200万円の出所がわからないということになってしまうからです。貸借対照表の左右は一致する、というのは、非常に重要な原則なので覚えておきましょう。

貸借対照表の資産と負債

貸借対照表の構成

流動・固定と一年基準

さて、実際の貸借対照表を見てみると、大きく資産・負債・純資産に分かれており、さらに資産と負債はそれぞれ「流動」と「固定」に分類されていることがわかります。この流動と固定を分類する考え方のひとつが「一年基準(ワン・イヤー・ルール)」で、「1年以内に現金化できるか」または「1年以内に現金を支払う必要があるか」がポイントになります。具体例で見る方がわかりやすいので、一年基準に基づいて各区分のイメージを見て理解していきましょう。

流動資産

「資産の中で、現預金または1年以内に現金化できるもの」が流動資産です。流動資産には、現預金の他に、1年以内に現金化できるものとして、受取手形、売掛金や棚卸資産(在庫)などが含まれます。

例えば、和菓子屋をイメージすると、銀行預金に加え、レジに収納されている釣銭なども「現金及び預金」として流動資産に計上されます。また、クレジットカード払いで商品を販売した場合、売上がクレジットカード会社から実際に入金されるのは先になります。「商品を販売して売上は計上したものの入金は少し先」な場合、その金額は「売掛金」として流動資産に計上されます。一般的な取引で入金が売上の計上から1年を超えて先であることはあまりないので、売掛金は原則として流動資産に分類されるわけです。

固定資産

「資産の中で、1年以内に現金化する想定でないもの」が固定資産です。固定資産の中はさらに3つに区分され、「有形固定資産」(土地、建物、機械など)、「無形固定資産」(ソフトウェア、のれんなど)、「投資その他の資産」(株式、敷金など)に分類されます。

和菓子屋の例だと、和菓子屋が店舗を自社保有の土地に自分で建てていれば、保有する「土地」や店舗の「建物」が「有形固定資産」に計上されます。店舗を賃貸で借りている場合は、賃貸契約の開始時に預ける敷金が「投資その他の資産」に計上されます。いずれの場合も、1年以内に現金化することは想定されていないので、固定資産に分類されています。

流動負債

「負債の中で、1年以内に現金を支払う必要がある項目」が流動負債です。1年以内に銀行へ返済する必要がある「短期借入金」や、材料の購入費用のうちまだ実際に支払っていない買掛金や支払手形などがあります。

例えば和菓子屋では、材料の小豆やもち米などを毎日大量に仕入れますが、支払いは翌月末などにまとめて行うことがあります。その場合、「材料を既に仕入れたがまだ支払っていない」金額は、買掛金として負債に計上されます。支払いは1年以内なので、流動負債に分類されることになります。

固定負債

「負債の中で、1年を超えて支払う必要がある項目」が固定負債です。1年を超えて銀行へ返済する「長期借入金」や、将来、従業員が退職した時に支払う退職金を積み立てた「退職給付引当金」などがあります。

流動・固定と正常営業循環基準

実際の流動と固定の分類では、一年基準に加えて「正常営業循環基準」という考え方も用いられます。「通常の営業サイクル(事業活動)で生じる資産・負債は流動に分類する」という考え方です。実務では、正常営業循環基準が流動・固定の区分の基本となり、一年基準が補完的に用いられます。

正常営業循環基準のわかりやすい例は、土地を仕入れて物件を開発し販売するデベロッパー(不動産開発会社)でしょうか。物件の開発には時間がかかりますので、多くの場合、土地の仕入れから物件の販売までは1年以上かかります。しかし、このプロセスはデベロッパーにとっては通常の事業活動そのものですので、仕入れた土地や開発中・完工後の販売前の物件は流動資産に分類されます。

とは言え、このようなケースは明確にビジネスモデルに規定される場合に限られており、一般的に通常の事業活動で1年以内に現金化されない流動資産や1年以内に支払いが生じない流動負債は少ないと言えます(特別な理由なく「売掛金の支払いは1年以上先で構いません」という会社を見たら、なぜそのような現金回収を遅らせる取引をその会社が許しているのか理由を疑うべきです)。ですので、貸借対照表を読む上では流動・固定の分類は一年基準を基本に捉えるのが初期的には良いのかなと思います。

貸借対照表の純資産

最後に純資産です。既に、純資産は「株主からの調達」を表すと説明しましたが、もう一歩踏み込むと純資産は「株主から調達した元手が事業で増減した結果の額」を表しています。これは、内部留保という考え方とも関連した大事なテーマなので、別の記事で改めて説明します。

純資産の具体的な構成を見ると、株主から出資を受けた資本金や資本準備金などと、出資された資金を元手に事業を行って会社が稼いだ利益剰余金などから構成されます。実際の純資産はさらに細かな項目に分かれていますが、とりあえず本記事では純資産は株主に帰属する価値であるということだけキーワードとして覚えておいて下さい。

貸借対照表から何がわかるか?

冒頭で触れたように、貸借対照表は「ある時点での、今までのビジネス(調達・運用)の積み重ね」を表しています。そのため、貸借対照表を検討すると「企業が今どのような状況にあるか」「企業がこれまでどのような経営をしてきたか」を理解していくことができます。

例えば、流動資産と流動負債の額を比べ、流動負債よりも流動資産の方が小さいとすると、1年以内に生じるだろう流動負債の「支払い」に必要な流動資産(現預金など)が不足している可能性があり、会社は支払いのために借入れをする必要があるかもしれません。

また、業態やビジネスモデルによって、貸借対照表は大きく異なります。例えば、装置産業である製造業は、工場や機械が必要なので有形固定資産が大きくなります。一方で、IT企業だと工場や機械は不要で、無形固定資産のソフトウェアの金額が大きくなるかもしれません。貸借対照表を比較する場合、業態やビジネスモデルが近い企業で比べなければあまり意味がないことは知っておくと良いでしょう。

貸借対照表の理解は難しく、しっかりと活用するには習熟が必要ですが、まずは今回紹介した基本的な構成を押さえてもらえればと思います。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆: 福西 宗吾、藤波由剛)

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