今回は損益計算書の構成と主要な利益・費用の意味を紹介します。損益計算書を読む上で、最初に理解が必要な大事なテーマです。順番に確認していきましょう。
今回の内容
・損益計算書の構成
・損益計算書を構成する利益項目と費用項目の意味
目次
損益計算書とは?

財務三表の中で、損益計算書はある期間の企業の損益(儲け)を表します。表す期間で最も基本的な単位は「年」でしょうか。「A社の昨年の売上」といった私たちにも馴染みのある数字は損益計算書にまとめられています。財務三表の中では、多くの方にとってもっとも身近なものではないでしょうか。
損益計算書は、売上高からスタートして最後に当期純利益を求める「上から下に流れる」構成となっています(※)。それぞれの利益・費用や利益・費用が出てくる順番に意味がありますので、背景を理解しながら構成を確認していきましょう。上記に損益計算書の流れを図示したので、読みながら見返してみて下さい。
※ 今回の説明は日本会計基準に基づきます。他に主要な会計基準としてIFRSや米国会計基準がありますが、まずは日本会計基準の理解をお勧めします。また、会社によって実際の構成は異なります。説明は標準的な設例と考えて下さい。
売上高から売上総利益まで
売上高
損益計算書は売上高からスタートします。和菓子屋を例にとると(※)、饅頭の売れた金額が売上高です。当たり前ですね!
※ 筆者の会社の近くにある美味しい和菓子屋をイメージしています(笑)。
売上原価
売上高の次に売上原価が計上されます。売上原価とは、本業の費用の中で製品・商品・サービスの提供に直接紐つくものです。簡単に言うと、製品・商品・サービスを提供するために必ずかかる費用が売上原価だと考えましょう。製造業なら、製造に関連する費用が売上原価になります。
和菓子屋の饅頭を例にとりましょう。何よりも饅頭の材料代は売上原価に含まれます。饅頭を売るには、饅頭を作らなければいけません。饅頭を作るには、必ず材料が必要で、饅頭がたくさん売れるなら材料も多く必要です。というわけで、材料代は饅頭という製品の提供に直接紐づく費用なので売上原価です。
他の製造に関連する費用として、饅頭を作るスタッフの人件費や、饅頭を作るために必要な調理器具の費用も売上原価に含まれます。イメージが持てるでしょうか。
売上総利益(粗利)
売上高から売上原価を引いて売上総利益を求めます(売上総利益=売上高-売上原価)。やや硬い言葉なので、簡単に粗利と呼ばれることも多いです。
粗利は、売上原価以外に一切の費用がかかっていないとしたら得られる利益だとイメージして下さい。極端な例で、和菓子屋が「何もしなくても」饅頭を作れば売れるとしましょう。「何もしなくても」とは、販売スタッフはおらず、店舗もない状態で、とにかく作った饅頭をどこかに並べておくとお客さんが勝手に買ってくれ代金を置いていってくれるようなイメージです。この時に得られる利益が粗利になります。
販管費から営業利益まで
販売費及び一般管理費
現実には「何もしなくても」製品・商品・サービスが売れるということはなく、顧客への販売には、営業やマーケティング、会社の管理には経理や総務などのバックオフィス業務に取り組む必要になります。このような本業の費用で売上原価以外のものが販売費及び一般管理費(略して販管費)に分類されます。
販管費の主要な項目は、文字通り「販売費」(営業に関連する費用)と「一般管理費」(その他の管理コストなど)です。例えば、和菓子屋の販売スタッフや経理スタッフの人件費は販管費に含まれます。また、店舗の賃料、広告宣伝費、経理や総務に関連して契約しているサービスの費用なども販管費に分類されます。
営業利益
売上総利益から販管費を引いて営業利益を求めます(営業利益=売上総利益-販管費)。営業利益は本業での稼ぎだと考えて下さい。
売上原価で作る費用、販管費で売る費用と管理する費用を計上したので、本業に必要な費用はほぼすべて計上しており、残りは利益ということですね。ただし、税金を支払う前の数字であることは注意が必要です。
営業外収益・費用から経常利益まで
営業外収益・費用
営業外収益・費用は、財務・投資活動などの本業以外で生じた損益です。さまざまな項目がありますが、例えば銀行から借り入れをしている場合の支払金利は営業外費用に計上します。その他に、本業以外の事業での収益、例えば本業で稼いだ余ったお金で不動産投資を行っていた場合の稼ぎは営業外収益になります。
金額が大きい場合は内容をしっかりと見るべきですが、収益・費用ともに金額は小さい場合が多いです。その場合はあまり気にしなくても良いでしょう。
経常利益
営業利益に営業外収益・費用を反映すると経常利益となります(経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用)。経常利益は本業以外の損益を反映した企業の経常的な稼ぎと捉えることができます。
営業利益と経常利益の違い
記事タイトルで問いかけた「営業利益と経常利益の違い」を簡単に表現すると、「どちらも会社の経常的な稼ぎを表すが、営業利益は営業外収益・費用を含まず、経常利益は営業外収益・費用を含む」と言えるでしょう。
ある会社の本業の稼ぎや実力を理解したい時は、営業利益か経常利益を見ると良いと思います。筆者の場合、会社の実力を知りたい時はまず「本業の稼ぎ」を表す営業利益を見ます。その上で経常利益を確認し、経常利益と営業利益に大きな差がある場合は、営業外収益・費用で金額が大きな項目が何か確認します。定義上は営業利益が本業の稼ぎを表すはずですが、事業に関連するものの営業外収益・費用に分類される項目(例えば持分法投資損益など)もあるため、営業外収益・費用の金額の重要性が高い場合は経常利益を追うイメージです。
一方で、日本の上場会社は、経営指標として経常利益に着目することがよくあります。これは営業外費用に金利費用が含まれるからかもしれません。会社は事業のために金融機関から借り入れをするため、金利費用を負担した後の利益が本業の稼ぎだと考えるなら、経常利益を重視する考え方もよく理解できます。(※)
※ 筆者が経常利益ではなく営業利益をまず見るのは、筆者のバックグラウンドが投資銀行にあり、金利費用の負担は「事業」ではなく「資本政策」の結果であると考えるファイナンス的な発想があるからかもしれません。この話は初級レベルのトピックではありませんので、いずれどこかで扱いたいと思います。
特別利益・損失から当期純利益まで
特別利益・損失
臨時に発生した損益が特別利益・損失です。金額が小さければ、それほど気にしなくて良いでしょう。
税引前当期純利益
一時的な損益を反映した税引前の企業の稼ぎです(税引前当期純利益=経常利益+特別利益-特別損失)。税引前純利益に対して法人税等が課されるとイメージしましょう。
法人税等
企業が稼ぎに対して支払う主要な税金を計上します(法人税、住民税および事業税(所得割))。日本企業の場合、税引前当期純利益に対し法人税等の税率は概ね30%とイメージしておきましょう。
当期純利益
税引後の最終利益です(当期純利益=税引前当期純利益-法人税等)。税引後純利益と呼ぶこともよくあります。当期純利益は利益剰余金として純資産に内部留保されます。
はじめて読む損益計算書でどこに着目するか?
損益計算書の構成と利益・費用項目の意味を紹介してきました。初めて触れると理解しづらいと思いますが、慣れれば読み方は難しくありません。慣れれば誰でも覚えられますので安心して下さい(※)。
ある会社を理解するために損益計算書を読む場合、筆者はまず売上高と営業利益に着目します。売上高で会社の事業規模を掴み、営業利益で本業の収益力を理解するイメージです(営業利益と経常利益に差がある時は、前述のとおり経常利益も確認します)。
また、会社がある期に「どれだけお金を稼いで手元の資金を増やしたか」をとても簡易的に知るには、税引後の当期純利益を見ます。実際に会社に残るお金は法人税等を支払った後の利益ですので、営業利益や経常利益ではなく税引後の当期純利益を見ることが適切です。
損益計算書の活用にはもっといろいろな知識が必要ですが、まずは基礎ということで今回は損益計算書の構成と利益・費用の意味を紹介しました。すべての道は一歩から、ということで、特に会計を学び始めた方に役立てばと願っています。また、別の記事でお会いしましょう。(執筆:藤波由剛)
※ 筆者は若い頃に会計の知識を持たずに投資銀行に転職したのですが、当時の自分は恥ずかしながら営業利益と経常利益のどちらが損益計算書で上にあるか理解していませんでした。慣れるまで、損益計算書のサマリーをいつでも見られるように印刷し会社で自席に貼っていたことを(恥ずかしながら)覚えています。そんな私でも今では会計を教える仕事をしていますので、皆さんも勉強すれば必ず使いこなせるようになります!